7-60【出発までもう少し1】



◇出発までもう少し1◇


 はい、ではここで問題です。

 ジルさんは先程言いました、「少し待て」と……さて、どれ程時間が経ったでしょうか?


 ……。……。……。


 正解は、三時間だ。

 少しか?これ。じっくりと映画観れるぞ。


「むっ……来たぞ三人共っ!ほら見ろ見ろっ!!」


 ジルさんも少しだけれてたからな。

 言い出しっぺだからキレる訳にもいかないだろうし、エルフは時間をそこまで気にしないと言う、長寿ならではの性格が表れているよな。


「来たって……いったい何が、ん?この音は」


 パカラッ――パカラッ――!

 蹄鉄ていてつの音が響く……馬だ、それも二頭。


「ジルリーネさまー!」


 随分と遠くから、ジルさんを呼ぶ声が響いてくる。

 普通にしてたら気付かないぞ、その距離だと。


 そして、音を立ててやって来たのは、エルフの男性。

 自分の乗る馬と、もう一頭を引き連れてやって来た。


「――遅いぞこらぁ!!」


 ジ、ジルさん、そんなに叫ばなくても。

 確かに俺等も焦れったかったけれど、この人……サイグス・ユランドさんだったかな。

 サイグスさんは、理不尽に怒られる理由なんてないんだからさ。


「――え、ええぇ!?」


 ほら困ったじゃん。


「ジルさん。サイグスさん、でしたっけ……この方」


「ああ。エリリュアの部下で、今回馬を用意してもらったんだが……遅すぎたな」


「あ。もしかして、僕の分でしょうか」


 ルーファウスが言う。

 そうだろうな、事前にジルさんも想定していたから、エリリュアさんたちが帰る時にでも指定しておいたんだろう。

 この日に馬を連れて来いってさ。


「ジ、ジルリーネさま……申し訳ございません」


「ふん、もう少し早く来て欲しかったものだ……まったく」


「まぁまぁジルさんも、そう言わないの」


 つーか絶対に怒ってないだろジルさん。

 余りにも時間がかかって、外で待ってた俺たちの代弁として言ってる感じだ。

 そもそも、俺たち誰も怒ってないよな……多分。


「そうだな!仕方ない、ミオが言うなら不問にしよう……うんうん」


 変わり身の早さよ。

 俺が言わなくてもそのまま許してそうないきおいじゃん。


「ありがとうございます!ミオ殿も、感謝します」


「いえいえ、サイグスさんもご苦労さまです……それじゃあ、馬をお借りしますね」


「ミオ殿……」


 馬から降りて、じ~ん……とサイグスさんはエルフ耳を垂れさせて感動していた。

 そこまでの事じゃないし。


「毛並みの良い子ですね……よしよし」


 ルーファウスは、サイグスさんが連れて来た馬を撫でていた。

 手際がいいな……乗れるのか?


「ルーファウスさんは、乗馬の心得が?」


 ミーティアが聞くと、ルーファウスは笑顔で言う。


「幼少期に少し。かじる程度ですが……サイグスさん、この子に乗ってみても?」


「あ、ええ!どうぞどうぞ」


 一言、断りを入れて、ルーファウスは足をかけて馬に乗る。

 栗毛の、背の高い馬だ。


「大人しいけど、よく一発で乗れるなルーファウス。俺、まだ乗れないし」


「あ、ミオくん馬乗れないんですね……意外です」


 馬上から笑顔を見せる。

 しれっとディスられた気がしたけど、実際そうだから仕方ないよな。

 馬に乗れないくらい……悲しくなんかないし。ないし。

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