7-56【前準備1】



◇前準備1◇


 あれからまた数日が経過した。

 エリリュアさんと言う、ジルさんの従妹殿が来訪してから数日だな。


 あの後、エリリュアさんと部下の二人は森に……正確にはエルフの里に帰った。

 マジでジルさんに用があっただけのようで、俺たちには特に触れることなく、そのまま礼を言って帰ったよ。

 その際に……『ではまた今度』と、エリリュアさんに笑顔で言われたのだが、その答えはこれから聞くことになりそうなんだよなぁ……




「……マジですか?」


「ああ……大マジだ、不本意過ぎるがな」


 その言葉には、テーブルを囲む全員がおどろいたよ。

 現在夕食中……森で取れた新鮮なキノコを焼いて食していた。

 大きなキノコを頬張るミーティアを見てると……何というかこう、変な気分になりそうなところを自制して、俺はジルさんに視線を移す。


 ガックリと項垂うなだれ、皿に乗ったキノコをフォークでツンツンするジルさん。いや、まるで子供だ。

 自慢のエルフ耳が、しなっと下がっている。


「エルフの里に……俺たち全員で?」


「ああ」


 もしかしなくても、エリリュアさんたちが訪ねて来た日には決まってたな?

 それを数日温めて、今こうして発表だ……言い出せなかったの間違い?うん、まぁそうだろうけど。


「全員と言うのは、僕たちもなのですか?」


 ジルさんの隣のルーファウスが、キノコを食べながら言う。

 口元を隠して……上品だね、君。


「……そうだな、お嬢様も勿論だし、ルーファウス……君にも当然来てほしい。護衛としてもな」


「なるほろ」


 まだ口に入ってるから。


「エルフの里なんて、初めて行くわね……ジルリーネは中々に自分の事を話さなかったから、どんな所かも知らなかったし。楽しみよ?」


 そう言うミーティアの言葉に、「わたしは憂鬱ゆううつなのです……」と、白い顔で言うジルさん。マジで嫌なんだなお母さん。


「で、何時いつですか?出来れば、姉さんとイリアが帰って来てからの方が良くないですか?」


 そもそもさ、二人いないから。

 休めているならいいけど、村で何かあったとか……後で知るのは嫌だぞ。


『――先日も【女神アイズレーン】に確認しましたが。クラウお姉さまとキルネイリア・ヴィタールは現在、村でオープンした宿屋を手伝っています。お姉さまは転生者らしく、ホテル経営の有り様を教え込んでいますよ……』


 何してんだよ。


女将おかみであるお母さまから頼まれたため、断れなかったのでは。それに、メイドの経験があるキルネイリア・ヴィタールの助言が的確で、おおむね好評らしいですよ』


 いや、だから何してんだって!


「すまんなミオ……だからわたしも数日待ったのだが、あの二人は帰ってこないではないか。お嬢様からウィズ殿の話を聞いたが……休んでいるのだろう?」


「あ……まぁ、そうみたいですね」


 聞いての通りだ。

 俺たちはこれから数日のうちに……今いるこの森の奥深く、更に深い位置にあると言うエルフの里――【フェンディルフォート】に行くことになった。

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