7-12【まるでニューゲーム2】



◇まるでニューゲーム2◇


 木々をなぎ倒して走ってくる猿の亜獣。

 名前は何だろうな、聞いた事ないけど。


『不明です。おそらくですが……魔物図書にも記載されていない新種かと』


「デカくなっただけなら苦労しないけど……この腕だしなぁ」


 左手で剣を構える。

 言っておくが、俺は右利きです。


『身体能力だけで翻弄ほんろうしましょう。回避重視、反撃で決めます』


「言うだけは簡単なんだよ!動くのは俺だぞ!?」


 そう小言を言いつつも、俺は走り出した。

 見えた巨体は、五メートルはある……今までどこに隠れてたんだよ。


『【魔力溜まりゾーン】から出現した可能性も否定できませんが、亜獣は基本的に進化による出現しか確認していません』


「つまりなにか?ここに来る直前で進化したとかかっ?」


『――はい』


 じゃあ、何で逃げんだよ!

 折角せっかく進化したってのに、逃亡にその力を使うか普通。


『――来ます、ご注意を』


「わかって――」


 ウガァァァァァァァァ――!!


 ドンッ――と、大木が飛んできた。まるで用意してあったかのように。

 この猿野郎、走りながら俺に気付いてやがったんだ。


「うおっ……」


 身体をかたむけて、巨木を避ける。しかし。


『何故けるのですか!【ブロードソード】で両断できます!』


 そんな事言ったって!武器の名前に信頼感がないんだよ!

 それに利き手じゃないんだ、斬れなかったら押しつぶされるだろ!


『ですから!斬れるってば!』


「――な!!お前……!!」


 口調を変えて、あるじにそんな事を言うウィズ。

 そこまで言われたら……くそっ、分かったよ!!


 猿の亜獣は続けて大木を投げて来た。

 だから俺も気合を入れて。


「……おらぁぁっ!」


 体重も乗せられない、腕の力だけの剣を振るう。

 弾かれたらどうしよう……なんて一瞬考えたけど。


 ザシュ……――!!


「――き、斬れた!」


『当然です』


 ウホゥッ……!?


 驚いたのは猿の亜獣。

 丸い目をぎょろりと動かして、俺を見る。

 何を思うのか、猿の亜獣はニヤリと笑った……ように見えた。


「……この猿!俺の腕を見て笑いやがったなぁっ!?」


 ドンドンドンドン……とドラミングをする猿野郎。

 小躍りまでしやがる!馬鹿にされてんの!?


「くそっ……んのやろっ!!」


 駆け出し、勢いで剣を振るう。

 その巨体に近付くだけで、俺の全身は影に隠れた。

 そして……猿の亜獣は俺の剣を――身体をくの字に曲げて避けた。


 ブンッッ――


「なっ」


『――回避重視と言いましたわよねぇ!』


 なにその口調!ウィズとアイズが混じってんだよ!!


 ウホホホホホッ!


「笑い方ウゼェェェェ!」


 猿の亜獣は、両手を組んで振り上げ……俺を叩き潰そうとした。

 俺は今度こそ回避しようと跳躍ちょうやく……したが。


 ドッ……


「――いでっ……って!木の枝ぁぁ!?」


 森の木に肩をぶつけて、そのまま落下した。

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