第7章【暴虐の女王と転生者たち】編
プロローグ7-1【心の雪は融けず1】
◇心の雪は
季節は冬の終わり、春の始まり……三月。
【リードンセルク王国】が始めたその行いは、瞬く間に諸外国へと広まった。
強制的な
それは王都……城でも同じであったが、戴冠した王女……いや、新たな女王には誰が何を言っても無駄だった。
まず軍事の力……【王国騎士団・セル】の増強。
アレックス・ライグザールが団長を務めるその騎士団だが、彼の権威は地に落ちる勢いで失い始めていた。
その原因は、王女が優遇し始めた騎士たちの顔が大きくなり、アレックス・ライグザールの威厳が鳴りを潜めていたのだ。
特に、リディオルフ・シュカオーンと言う男がその地位を
特異な能力を使うリディオルフには、一般の騎士たちは手も足も出なかった。
リディオルフは、その
団長であるアレックス・ライグザールですら何も出来ずに負けた時は……思わずその場の音が無くなったほどだ。
その他にも、【リューズ騎士団】と言う騎士たちが王国軍に加わった。
財務大臣に
あの日、【リードンセルク王国】全土で行われた
特に、指揮を執れる騎士数人が怪我をした……中には重傷で、
それでも生き残り、王都まで撤退をしたその後……彼は今も療養中だ。
その他にも、帰らぬ人となった騎士も数人いた。
しかしそれでも、新たな女王は毛ほども気にしなかった。
「人員ならば、こうして増やせるのだから」と、更に追加で
これではまるで投獄だ……という声もあったが、責任者である人物の一存で、そう言った非人道的な行為が黙認されているらしい。
その責任者……というのは、一人の女性だった。
王国の聖女と呼ばれ、奇跡の魔法を使いその地位を築いた。
しかし実態は……転生者だ。
彼女の名を、レフィル・ブリストラーダ。
能力――【
「……あーあー。また駄目ね……一般人は
棒付きキャンディーを口に含みながら、舌でころころと転がす。
歯に当たってカラカラと音を鳴らすが、その音が地下に響いていた。
「う、うう……あぁ……ぅあ」
レフィルは
「壊れたわねぇ。えっと……これで
その質問に答えるのは、彼女の背後に立つ男性だった。
「――六十八人です、レフィルさま」
カルテのような物を持ち、冷静にそう答えるが。
顔は笑っていない。
彼はクロック・レブンと言う、いわば聖女の助手だ。
「六十八体か……随分と数が減ったわね、もう少し量を増やそうかしら」
「はい、ではこちらを」
その言葉にも素直に
様々な物を置いたサイレントワゴンから、薬品を
「ふーん」
聖女は薬品を受け取り、ちらりと男性を見る。
その視線は何かを訴えてはいるが、そういう時は目を
「……どれどれ、このくらいかしらね」
レフィルは薬品に手を
するとキラキラと
能力――【
「力を入れ過ぎれば、この男たちのように
男は
「そうね。加減がムズいのよ……アタシの能力は。強制的に人間の限界を超えさせるんですもの、身体が持たない雑魚ほど、壊れるのは早いわね」
使いようによっては、身体の再生までもを可能とするその能力。
治癒ではないものの、その力は貴重だ。
「【リューズ騎士団】から報告にあった“治癒魔法の使い手”……確保しておきたかったですね」
「あーそれね。アタシの負担が減るんだもの、真っ先にやりなさいよ」
(回復は、転生者しか使えないんだったわよね……勿体ない事を)
人差し指を男性に向けて、レフィルは言う。
この世界では回復や治癒がとても貴重である。
回復アイテムも品が少なく高価、傷を治療する薬ですら珍しいと言うのに、回復の魔法など、明らかに転生者の力だと分かる。
「それに……撤退したとか言ったわよね?南の【ステラダ】と、どこだっけ?」
「はい。王国南部の【ステラダ】と、東部の【カレントール】ですね。反抗があり……【リューズ騎士団】も被害を多数受けました。両所ともに大きな【ギルド】が存在しますから、そのせいでしょう」
「だからって、負けたまま逃げるぅ?ザルヴィネの片腕だって、まだ再生してないのよ?あれだけの手傷を負わされたんだから、せめて
「私にそんなことを言われましても」
ザルヴィネ・レイモーン。
【リューズ騎士団】の騎士であり、あの日一番の手傷を負った人物。
魔法により右腕を失い、更には部下を
「ま、あの怪我で生きてただけでも大したもんだけど、再生まではまだまだ掛かるわよ?アタシの【
「……はい。薬品を使わずの奇跡の御業……他の人間ならば崩れ去っている事でしょう」
当然、異常なまでの痛みもあるだろう。
更には能力で、人間の持つ自然治癒に、有り得ないほどの活発性を働きかける……それは常人では耐えられない痛みになる。
再生と共に、痛みも尋常ではないからだ。その結果、自壊が起こるということだ。
「そ。成功例は少ないわ。ザルヴィネだって、いつぽっくり逝くか分かったもんじゃないし……あと、左腕だけは無理。再生も出来ないわ」
「聖女さまのお力でも……ですか?」
「うん、無理」
断言するレフィル。
男は思う、この自信家の女がそう断言するという事は、本当に無理なのだろう。
「だってザルヴィネの左腕……傷口すらないのよ?どうやって再生させるのよ。あれじゃあ始めから無かったみたいじゃない」
ザルヴィネの左腕は、右腕とは違い傷口が無かった。
消失と言うよりも、干渉を受け付けない……完全に細胞が
「傷を治す治癒能力は人間誰にでもあるけど……あの腕は異常よ。アタシの【
「はぁ、それは騎士団に言ってください」
レフィルは「ふんっ」と鼻で笑い、作業に戻ろうとする、がしかし。
「あ――」
「どうしました?」
何かを思い出したように、レフィルは途端に顔を青くする。
明らかに
「……わ、わすれてた……女王に呼ばれてたの……」
「……それは、ご愁傷様です」
ガックリと肩を落とし、聖女レフィル・ブリストラーダは、王城へ向かうことにしたのだった。
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