6-129【蛮行の王国10】



◇蛮行の王国10◇


 商店がひしめく、冒険者や冒険者学生が多く集まるその場所に、私……ミーティアとイリアはいた。

 いいものを見つけて、その商品を未来の自分の店で置くために購入しようとして、店内で支払いをしていた時だった。


「――貴様ら動くなっ!!そこで大人しくしていろ、手を後ろに組んでな」


 外から聞こえて来た声に、私は。


「なに?何かあったのかしら……」


「分かりませんけど、なんだか様子が物々しいですね」


 大量の荷物を持っているイリアと、カウンターに金銭を乗せる私。

 店の人も不思議がっているが、客である私たちを優先していた。


「少し見てきま――」


 イリアが荷物を置いて、外に出ようとした時だった。


「――はいはーい。店の中の人も動かないでねー」


「「!」」


 白い軍服をまとった男性が、右手に杖を持って入ってきた。

 その杖……魔法使いの。それに腰にも帯剣してある……


「ありゃ、あんまり居ないじゃんか……一、二、三人か。一人は店員の女の子だから。君たちは学生かな?」


「……ミーティア」

「ええ……王国軍だわ。でも、あのバッジ」


 当然、見覚えがある。

 ジルリーネも仕事の時は付けていた、【リューズ騎士団】の物だ。


 私とイリアはこっそりと会話をしつつも、言う通りに両手を背に回す。


「いい子だね。ま、悪く思わないでよ……僕たちもこれが仕事なんで」


 ノリの軽い騎士は、面倒臭めんどうくさそうにしながらも私とイリアを観察する。その仕草はどう見ても……女好きのものに見えた。


「……」

「……」


「ふーん。魔力は充分だね……戦闘力はこれからどうにでもなるし、よし!」


「いったい、何なのですか?」


 私はたまらず声を掛ける。

 くすぐられるような視線が、やけに私に来ている気がして。


「ん?あー、俺は【リードンセルク王国】騎士団所属の騎士だよ。現在、【ステラダ】の住民から兵への志願者をつのっている所でさー」


 兵の志願要請?こんな商店街で?

 それに……これじゃあ志願じゃなくて、無理矢理な気が。


「よっし。それじゃあ、君が志願者ね」


「は?――ちょっ……なにをっ」


「なっ……ミーティア!?」


 騎士は私の手を無理矢理つかみ、引っ張って行こうとする。

 やっぱり……これでは、まるで……


「ほらほらー、抵抗したらとなりのハーフエルフも連れてくことになっちまうよー?いいのかいそんなんで。君だって分かってるだろう?軍に所属する半端なエルフや獣人が……軍人に何を奉仕しているのか……さぁ?」


「――!!」

「……っ」


 この人……最低よっ!

 事実として、確かに少なからずあるのかもしれない……でも、それを目の前で!


「離してっ!!」


 強引に騎士の手を振り払って、私はイリアの隣に戻る。

 睨むように男性を見ると……その騎士は。


「おっと……おやおや、結構お転婆だったか。お嬢様っぽいと思ったんだけど……って、そこのハーフエルフ……今、この子の名前ミーティアって言ったかい?」


 私の……名前?

 それの何が、兵をつのる事と関係が……


「――ザルヴィネさーん!!ちょいこっち来てー!」


 騎士は大声で、外にいるのであろう仲間を呼ぶ。


「……どうした、コーサル」


 その声は、先程店内まで聞こえて来た大声の持ち主。

 そしてどうやら、この騎士の上官のようだ。


「……うっす。この子じゃないっすかねー?」


 私を指差して、コーサルと呼ばれた騎士は上官の騎士に確認をする。


「ん。確かに、青い髪……君は。ミーティア・クロスヴァーデンか?」


「……」


 マズイ気がする。

 ここで否定しても……きっと。


「いやすまない。言葉はいらないな……情報通り、珍しい青い髪……聞くまでも無かった」


「っすよね!よっしゃお手柄!」


 私を……探していた?

 王国の正規騎士が?【リューズ騎士団】の団員が?


「王都に来てもらおう。ミーティア・クロスヴァーデン……御父上が君を待っている」


「――そういうっ!!」


「ミーティア!」


 私とイリアは、その上官騎士の言葉を聞いた瞬間……行動を移したのだった。

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