6-108【選んだ結果1】



◇選んだ結果1◇


 そわそわと、私は隣にいる青髪の少女をうかがいます。

 あ……私の名前はキルネイリア・ヴィタールと言いまして、この少女、ミーティア・クロスヴァーデンの友人……でいいと思います。


「これなんかどうかしら?」


「はい!いいと思いますっ」


 ミーティアが見せて来たのは、花瓶かびんです。

 新しい商会を設立したら、育てた花をけるのだとか。


「本当にぃ……?」


 疑心の目で見てくるミーティアですが、私は本当に思っています!


「本当です!あ、でも……一つ言わせていただくのなら……高額ではありませんか?」


 少し声の大きさを抑えて、キョロリと周囲に目をやって。


「う~ん、そうねぇ……」


「もっと普通のでよろしいのでは?」


 高額と言っても、お嬢様であるミーティアにはそうでもないはずです。

 ですが、今のミーティアは大きく違う生活を始めていました。


「止めておきましょうか……」


「はい。ミオに手伝って貰って、手作りでも面白いかもしれませんよ?」


 ミオは土の魔法が得意ですし、花瓶かびんくらい作れそうだと勝手に思った私は、良案だと手を叩きました。


「そう……かも……ね」


「?……ミーティア?」


 言葉が途切れ、ミーティアは花瓶かびんを棚に戻しながら……固まりました。

 視線も固まっていて、その先に何かがあるのだとさっした私も、追うように確認すると。そこには一人の女性が居ました。


「……エルフ」


 銀髪の、高貴な服をまとったエルフの女性が、そこには居ました。

 ミーティアの知り合い……なのでしょう。

 ですが、何というか……複雑そうなその表情は、どちらかと言えば恐れなのではないかと、私は思いました。


「ジルリーネ……」


「――お久しぶりです。お嬢様……」


 銀髪のエルフ、ジルリーネさんと呼ばれた女性はペコリと頭を下げて、優しく微笑ほほえみました。

 ですがやはり……その笑顔もまた、恐れが含まれているように感じました。


「そうね。秋の最初だものね……その、あの時は――」


「――あ!あの……その、ミーティア……私は、外した方が?」


 こんな神妙な空気の中で、何とか声をはっした私は、隣のミーティアに言います。しかしミーティアは。


「いいえ、居てくれると助かる……お願い」


 視線はジルリーネさんから外さないまま、私に言います。

 そう言われてしまっては「は、はい」と言うしかないのです……どうしましょう、本当はミオを呼びに行こうと思ったのに。


 食器屋の中で交わる視線は、一体どのような思いなのでしょう。

 二人の関係は、一朝一夕いっちょういっせきで語れるものではないと、私にも分かりました……ミオがいてくれればと、どれほど思ったか。


「お嬢様……あの件、旦那様にお話ししました……」


「――そう。話したのね」


 “あの話”と言うものがなんなのか、少しですが理解できます。

 この人はミーティアをお嬢様と呼び、旦那様と言うのはミーティアのお父上でしょう……家の話。それは他人が口出しできるものではなくて、ましてや赤の他人である私が聞いててもいいのかと、泣きそうな感情で聞くしかないのでした。

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