6-104【漆間星那1】



漆間うるま星那せいな1◇


「――って感じだよ。俺の前世での……くだらない人生さ」


 くだらないなんて、誰が思うか……そんなの自分だけよ。

 それが知り合いの、探していた人の人生だって知ったら……誰だって。


「……ぐすっ……ごめん」


「なんで姉さん……謝るんだよ、俺の事だぞ?」


「だって、私……」


 涙が止まらなかった。

 彼が……ミオ・スクルーズが、武邑たけむらみおだ。

 ずっと……十八年、探そうとしてた。

 幸せを受け入れたらダメだって、家族を受け入れたら、死んだ彼に失礼だって……ずっと思ってた。


「姉さんさ……もしかして、俺の事……前世の俺の事、知ってる?」


「……」


「いや、無理に答えなくてもいいよ……俺は、怖かったんだ。聞くのがさ、聞いてしまったら、今世の関係が壊れるんじゃないかって、思って」


 それでも今、聞いてくれたのは……どうして?


「壊れないわよ。私はもう……クラウ・スクルーズなんだから。ミオのお姉ちゃんでしょ?」


「そっか。嬉しいもんだね……そう言ってもらえるのは。俺さ、家族にあこがれてたんだよ」


 分かる……きっと前世での家族への態度を、やり直したかったんだ。

 だから恐れた、変わってしまう事を。

 ミオが私を転生者だと知ったのは、随分幼い時……その時点で、きっと自分から進んで転生者だと言う事はやめようと、決めていたんだ。


「変わらないわ。私は……武邑たけむらくんの……――あっ」


「あ。やっぱり知ってたか……」


 やばい、やばいやばいやばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばい!!

 言ってしまった、名前を呼んでしまった。

 前世でも呼んだこと無かったのに、なんで今!答えようとしただけなのに!

 ミオの姉だって言おうとしただけなのにっ!!


 これじゃあ……まるで私……


「う……漆間うるま星那せいな……です」


 なぁぁぁぁぁぁんで!!自分から名乗ってるのぉぉぉっ!!

 ミ、ミオの顔が見れない、声が小さくなる!恥ずかしいっ!!


漆間うるま星那せいな……さん……」


 ――!!


 あ、ああ……やっぱり私のことは知らなかった!

 何気にショック!もしかしたらって、一度しか会話してなくてももしかしたらって思ってたんだ!恥ずかしい、死にたい!いっそ殺して!!


「あーでも。じ、実は星那せいなって名前だけは知ってた……子供の頃、イエシアスが呼んでたからさ。ごめん」


「えぇ……」


 だあぁぁぁぁぁ!あの陰湿いんしつ女神!!

 あれだけ前世の名前を呼ぶなって言ってたのに、よりにもよってミオがいる時に呼んでたのねっ!こ、殺す……ぶっ殺すっ!!


「ね、姉さん……顔顔っ!泣きながらすげぇ顔してるからっ!」


「うぅ……なんでぇ」


 ガックリとする。

 なんだか、急にミオが遠い……でも、近い。


「これから、どうする?姉さんの事も聞きたいけど……多分無理だろ?」


「……うん。無理……それどころじゃない」


 下を向いたまま、私はそうとしか言えなかった。

 だけど……ミオがここまで語ってくれたなら、私も。


「でも、少しだけなら……聞いてくれる?」


 私も覚悟を決める。

 全部……武邑たけむらくんに、ミオに言う。

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