6-100【クラウの目的】



◇クラウの目的◇


 私……クラウ・スクルーズこと、漆間うるま星那せいな

 転生してまで求めるその目的は……同日に命を落とした同級生、武邑たけむらみおを探す事だった。


 転生し……何もない田舎に産まれて、それでも広い異世界で彼を探すには、力が必要だと思った。だから冒険者学校があると聞いた時、真っ先に行くべきなんだと想定したわ。強くあれば、進める道は多くなる気がしたから。

 同じ転生者であると、その事だけは知っていた。

 だから彼は、おそらく私よりも年上……もしくは同じ年頃の少年に転生した……そう仮定したけれど、もうまったく自信がない。


 今、目の前にいるこの少年……弟、ミオ・スクルーズがそうじゃないのかと……私の心がうったえている。

 確かに同じ名前だ……でも、初めは偶然なんだと、そう思っていた。

 だけど、ミオが転生者だと夏に知ってから、その考えが加速している。


 私はジッ――と、一点の曇りもない視線でミオを見る。

 心の中を覗き込もうとしているように、真剣な表情で。


「……」


「姉さん……照れるよ」


 武邑たけむらくんはそんなセリフを言うだろうか。

 昔から考えても、想像も出来ないから……だから自信が無くなる。

 ハッキリと言ってしまえば、私は武邑たけむらくんと、一度しか会話をしていない……学生の時、一度だけ。

 後は……私が一方的に見ていただけだ。


 別に恋とかじゃない……私は、彼がどうして死んでしまったのか、どうしてあの女に殺されてしまったのかが気になって、その真相を知りたくて……この世界で彼を探そうとしていた。


「ミオ……前世の話……する?」


「――え」


 ミオの顔が強張った。

 私の顔も……多分緊張をはらんだかもしれない。

 上擦った声は、少し震えただろうか……自分を晒すと言う行為が、恐ろしく……怖い。


 でも――聞いてしまえば。


「私の前世……知りたい?」


「……姉さん……でも、それは……」


 ミオは少し考え込む。

 健全な世界で健全に育った日本人……プライバシーがどうとかいうくらいには、他人の事を考えられる。

 自分本位で物事をかえりみない人種じゃない……ミオは、優しい人だ。

 だからこそ……信じられる。


「――聞いて。全部じゃないわ……少しだけ、少しだけ話しましょう」


 私も、怖さはある。

 彼の正体を知りたいと望む自分がいる事も事実……でも、知れば壊れる気がして。

 今までの歴史……スクルーズ家の姉弟としての絆が、全部崩れてしまう気がして、私もミオも、夏から秋にかけて……進展できなかったんだと思う。


「……分かったよ。話そう……」


 ミオは強張っていた肩の力を抜いて、息を吸う。

 寒い外気を吸い込み……白く変わる息を「ふーっ」といて。


「何から話そうか。個人情報は……」


「そ、そこは控えましょう」


 いきなり真実に辿たどりはつけない。

 私の心臓が持ちはしないから。


「だよね、流石さすがに……はは……」


 「あっぶねぇ」とでも思ってそうな苦笑いをして、ミオは語り出す。

 それは私にとって、一人の少年の物語。

 ――武邑たけむらみおの、三十年の物語。

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