6-98【ステラダの冬1】



◇ステラダの冬1◇


 季節は冬……寒い風と、ごく少量のささやかな雪が【リードンセルク王国】にも降っていた。

 しかし【豊穣の村アイズレーン】に比べれば、雪とは呼べないようなものであり、ここ【ステラダ】でも……それは同じだった。


「全然、雪降らないんだな……【ステラダ】って」


「……そうね。村とは大違いだわ……案外距離は離れていないのにね」


「だね」


 【ステラマーケット】のど真ん中で、ボーっとするスクルーズの姉弟。

俺とクラウ姉さん。

 村との冬を比較をしながら、雪のない景色に切なさを覚えていた。


「まさか、雪が恋しくなるなんて……前世では考えられないんだけどなぁ」


「確かにそうね。街では積もる事も多くなかったし……」


 なるほど……クラウ姉さんも都会育ちと。

 俺と同じ都民か、近い場所に生きてたのかな。


「村では今頃、雪掻きの真っ最中かな……道は整備してあったから、それほど大変じゃないと思うんだけど」


「でしょうね。警備隊の人たちがやるでしょ……男衆が増えてるんだし」


 十二月……【ステラダ】の冬も冷える。

 だけど雪が降る所まではいかず、村に比べれば寒くもないよ。

 しかし、長年にわたり住んで来た豪雪地帯に比べれば、冬と感じないのだ、俺たち二人は。


「あ――そう言えば、ミーティアとは……どう?」


「え、なに急に……唐突だなぁ」


 マジで急だね。


「だからどうって聞いてるんだけど。二人の関係よ、進展した?」


 関係……か。また難しい事を聞いてくるな。

 俺も少しだけ嫌がらせしてみるか……もう、姉さんが嫌いなワードは知ったしな。


「――姉さんこそ、あの馬鹿・・・・との話は本当によかったのか?」


 秋の終わり……俺たちには色々と話す機会があった。

 その中の一つ、ユキナリ・フドウの事だ……


 クラウ姉さんは明らかに不機嫌そうに眉をひそめる。


「は?またそれ……?断ったって言ってるでしょ。話を逸らさないで」


「いや、そういうつもりじゃ……ないけど」


 に、睨まれた。

 そうなんだ、ユキナリの話をすると、途端とたんに不機嫌になるんだよ……この人。

 先日姉さんから聞いたんだが……ユキナリの奴、どうやら【サディオーラス帝国】の軍人だったそうだ。

 まぁ本人から直接聞いた訳ではないが、あの馬鹿はクラウ姉さんを軍人にスカウトしたんだとさ。

 それ以来、姉さんはユキナリの奴を毛嫌いしている……それこそ顔も見たくない感じで、あいつの話をすれば今みたいに俺を睨んでくるんだ。


「ならミオが答えなさい。私はあの子たちと買い物に行ってないんだから、それくらいはいいでしょう?」


 なんて理不尽な。

 でも……ミーティアとの話なんて、言える事もほとんどないんだよな、実は。


「進展……って言ってもさ、その……別に恋人でもないし、パートナーとしても今は違うし、イリアと忙しそうだし……はぁ」


 そう。冬に入ってから、俺は余りミーティアと二人きりで会えていないのだ。

 自分で言っててむなしくなるじゃないか……姉さんのせいだぞ。


「……な、なによその恨めしそうな目……怖いんだけど」


 引きながら俺の顔を押しのける。

 怖いとは失礼な……姉さんが俺の心にダメージ与えたんでしょうが!


「んぐ……ね、姉さんはこれからどうするんだよ……首席なんだから、今日みたいに暇な日って、あまりないんだろ?」


「そうね……今日がその珍しいオフだからっ、弟と話をしてんでしょっ!あの二人はいつまで買い物してんのっ!遅いのよっ!!」


「それを俺に言われても!だったら姉さんも一緒に行けばよかったじゃないかっ」


 そうなんだよな……俺とクラウ姉さんがこんな道でぼさっとしてるのは単に、買い物に行っている二人……ミーティアとイリアを待っているからだったのだ。

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