6-76【試験6(ミーティア視点)】



◇試験6(ミーティア視点)◇


 翌朝……ほとんど眠れなかった私は、草原で草を集めていた。

 【ドルザ】の餌になる、夜にだけ栄養価を増す……不思議ふしぎな草。

 昼間は普通の草で、判別も難しいのだけど、昨日の夜のうちに場所を確認しておいたからそこは安心ね。


「……」


 だけど、気がかりは……テントに残っているイリア。

 まさか、ミオの事が好きだったなんて。

 確かにミオがイリアに助力をしていた時に、二人きりの事も多かったけど……まさか恋心にまで発展しているとは思わなかった……しかも――こ、子供を欲してるだなんて。


「……はぁ」


 ため息をくのは、自分の自信の無さのせいかも知れない。

 イリアには友人として、パートナーとして、幸せになってもらいたい。

 ハーフであるイリアには、普通の幸せといっても難しいかもしれないけれど……でも、その結果みちびき出した答えがきっと、子供だったのかも。


「……子供……かぁ」


 年齢的には、この年齢で産んでいてもなんら不思議ふしぎはない。

 貴族にはそう言うパターンも多いし、遠くの村ではもっと若く結婚している場所もある……それは知識として知っているわ。

 でも……自分がそうなるとは、考えなかった。

 ミオの事を本気で好きだと、自覚すればするほど……現実味を帯びてくる。


 夢を追いたい、好きな人と一緒にいたい、友人に幸せになって欲しい、女としての幸せも欲しい……まるで欲望のかたまりだ。


「……戻ろう」


 草をかき集めて、それをかごに仕舞ってテントに戻る。

 変な事は考えない様にしよう。今は真剣に、試験を受けないと……【ドルザ】が昼に出ないなんて、決まった訳じゃないんだし。


 そして私がテントに戻ると、イリアがガントレットと短剣を手入れをしていた。

 それはもう大切そうに、真剣な表情で。


「お疲れ様イリア。草は沢山集めて……外に設置しておいたわよ」


「はい。ご苦労様です、ミーティアの弓も……素人目ですが手入れをしておきました」


「……あ。ありがとう」


 イリアの後ろには、手入れされて綺麗になった私の弓【魔導弓マギアロー】が置いてあった。


 ダメだな私、目の前の情報しか入ってない。

 イリアは自分の得物えものの前に、私の弓まで手入れしてくれていたのに。

 切り替えろ……ミーティア・クロスヴァーデン。


 しかし、そんな私の気合を見透かすように……その夜もまた、【ドルザ】は現れず……二日目の夜は、そうして過ぎて行った。





 次の日……試験三日目。

 そろそろ各地でも、試験をクリアする生徒が出始めるだろう。

 私たちも、頑張らないと……といいたい所だけど。


「出ませんでしたね……【ドルザ】」


「そうね。折角大量に餌を集めたけど、まさか現れもしないなんて」


 これは想定外なの。

 私たちの見込みでは、現れて倒せない事はあっても、そもそも出現しないだなんて思わなかった。


「しかも夜にしか出ないと言うのは本当そうね……厄介やっかいだわ」


 うわさによると、【ドルザ】は【魔力溜まりゾーン】から直接出現するから、昼間は出ないという事らしいわね。


「そうですね……他の魔物はちょくちょく出ますが、【ドルザ】だけは他の生徒も見ていないそうですし」


「そう……やっぱり」


 この場所には、多少ながら他の同窓生や先輩方もいる。

 イリアは積極的に情報を聞きに行ったのよ……邪険にされる事の方が多かったらしいけれど。

 逆に私は、餌の調達や罠の設置を担当した……魔力の関係で。


「罠にも反応はないし……今日で現れなかったら、厳しいかもしれないわね」


 罠に使用した探知の石を見つめながら、無反応のそれをにぎりしめた。

 今は待つことしかできない……それがもどかしくて、更に変な事ばかり考えさせられてしまう。

 自分の未来を切り開くために決めた決意に、横から別の考えが割って来る。


 夢……恋……友……私は、自分で決めなければいけない。

 流されるだけじゃ、今までと何も変わらない……変われない。

 この試験をきっかけに出来れば、自分の意識改革にもなると思っていたのに、くじかれてばかりだ。

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