6-75【試験5(ミーティア視点)】



◇試験5(ミーティア視点)◇


 馬車はクレザース家の所有する物を借りて、私とイリアは目的地へ向かった。

 【テスラアルモニア公国】……国境付近の草原、そこに生息しているであろう魔物――【ドルザ】。

 馬獣である【ドルザ】は夜行型であり、夜に群生する草を食べて飢えを凌ぐ草食だ。

 そんな場所へ、半日を掛けて辿り着いた私たちは……正直言って、へとへとだった。


「もう、夜ですね……ミーティア」


「そうね、この試験内容の期日は……四日ね」


 片手で書類を見ながら、片手で腰を叩きながら私が言うと、イリアが。


「すみません……乱暴な運転で。腰を違和いわしましたよね……」


「え……あ、ああ……慣れない事だったのだし、仕方ないわよ。イリアは平気なの?」


 確かに何度か腰をぶつけたけれど、そこまで気にはしていないし、半日でここまで来れたのは大きいと思っていたのだけど。

 やっぱり、イリアは普段からポジティブなのに、変な所でネガティブになるわね。


「ですが……その、お大事なお身体なのでしょう?」


「――ん~?」


 なにを言っているのかが理解できず、私は思い切り首をかしげた。


「……女性にとって腰は大事です。とくにミーティアは、今後お子を授かるでしょうから……」


 はい??

 いったいなんの話をしているの?この子は。


「なんですその顔は。自覚なしですか!」


「ええ!?私が怒られるの!?」


 イリアは身を乗り出して私に肉薄する。

 顔を近づけて、真剣な顔で言う。


「当然です。あのようにお強い方……そんな方のお子を授かれるのは、幸せな事です!それに、ミオはとっても魅力的で、優しい方です……」


「え……え?」


 それって……まさか、ミオとの……こ、子供!!?私が!!?

 なんでそんな事になっているの!?り、理解出来ない!


「なんですかミーティア。まさか考えていないのですか!?もう私たちは子供を産めるのですよ!?女だったら、誰でも考えるはずです!」


「そ、そうかも知れないけど!」


 なんで急にそんな事を言い出すの!

 どうしちゃったのよ、イリアは!


「私たちのような半端者ハーフは、子供を授かれる確率が低いのです……更には産まれる子供は半端者の子供として扱われてしまいます、だから……ハーフの女は強い遺伝子を欲すると、本に書いてありました!」


「――ほ」


 本に!?


「なにを言って――」


「その証拠に!私は……!」


 そこまで言って、イリアは止まる。


「イリア……?」


「すみません。取り乱しました……申し訳ありません」


 後ろを向いて、イリアはシュンと首を下げた。

 だけど……私は察する。


「イリア……貴女もしかして、ミオを」


 好き……なの?


「――はい。でも……私には叶わないですから。だからミーティアには、幸せになって頂きたいんです。今は考えられないかもしれませんが、心の隅に置いておいてください……幸せの形は、人それぞれですが……それでも家族という形が、もっとも分かりやすい形で存在するんだって」


「……」


 その言葉は、イリアの本心なのかもしれない。

 家族を失った彼女は、自分の家族を求めている。

 それを諦めて、私に託すように言うその背中は……とても、悲しげなものに見えた。


 そんなイリアにかける言葉もないまま、一日目の夜は過ぎた。

 試験の期日は……残り三日。

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