6-67【また戻ってくるから】



◇また戻ってくるから◇


 あの後、俺はリアをロクッサ家へ連れていき、リュナさんに預けると家へ戻った。

 家では父さんと母さんが、夜の食事の準備をしてくれていたけど……そうだな、正直そんな気分ではなかったけどさ、ありがたい事だけは確かな事だよ。


 レイン姉さんもコハクも、宴会の時とは打って変わって接してくれた。

 どうやらあの時は、村の人たちを俺に会わせたいって言う父さんのはからいだったらしい。

 レイン姉さんもコハクも、本当に嬉しそうにしてくれてさ……それは勿論嬉しいし、なにより家族が温かいって実感できる。

 本当はクラウ姉さんも帰れれば良かったんだだけど、依頼サポートで【ステラダ】にはいなかったしな。また近いうちに帰ってくる予定も付けたし、その時は一緒に帰ってくると言う旨を伝えたところ、皆も喜んでくれたよ。


 そして次の日……俺は【ステラダ】に戻る為、アイシアのもとへ向かった。

 今日は初めから、畑へ。


「――アイシア」


 畑仕事をする健康体の少女と、周りをうろうろとする竜の幼女がそこには居た。


「あ!ミオ……おはようっ!」


「おにいちゃーん!」


 リアは俺に気付くと駆け出し……そして。


「――あ!……ぎゃふっっ!」


 こけた。


「あ……リアっ」


「えへへ、転んじゃった」


 鼻血出てるからね、リア。


「もう……走らないでって言ってるのに。ほら、リア」


「うん」


 寄って来たアイシアに顔を乱暴に拭かれても、リアは笑顔だった。

 怪我はしてないな、鼻血はダラダラ出てるが。


「ごめんアイシア、仕事中に。今日……帰るからさ、挨拶に来た」


「あ。そうだよね……いつまでも居られないもんね」


「ああ。試験があるからな……でも、また直ぐに戻って来るよ。リアの事もあるし……それに」


 アイシアの事だって、何一つ解決はしていない。

 始まったばかりで、こんなにも考えさせられるとは思わなかったが。


「……それに?」

「それにぃ?」


「あっ、いや……なんでもないよ。次は……多分、冬だけど。それまでリアは待てるかい?」


「――うんっ」


「そっか……偉いぞ」


 ガシガシと頭をでる。

 「えへへ」と嬉しそうに目を細めるリアは、そこまで深刻そうには見えない。

 それだけでも安心材料の一つにはなるし、申し訳なさも少しだけ緩む。

 かと言って、この子をこのままにもしておけないのが実態だ。


「冬になったら、また戻ってくるからさ……その時まで、暴れ……じゃなくて、大人しくしてるんだぞ?」


「リア、暴れないよ?」


 ごめんって。

 暴走状態……瞳を持つ者としての能力――【暴君蝕タイラント・エクリプス】が発動したら、現状止められるのは俺だけだ。

 俺がいない時に暴走されたら……村は終わる。

 アイズが何とか出来るだろうが……そうもさせたくないからな。

 せめて言葉で言っておかないと。


「あはは。分かってる……いい子にしてろよ?必ず、お父さんとお母さんの所に連れてってやるから」


「……?……うん」


 リアは俺の言う事を分かっているのかいないのか、小首をかしげながらもうなずいた。


「それじゃあ、アイシアも……この子の事頼むな、申し訳ないんだけどさ」


「ううん、そんなことないよ。わたしも妹が出来たみたいで楽しいし、ママもパパも喜んでるから……全然、苦じゃないよ」


「そう言ってもらえると心が休まるよ」


 アイシアにはまだEYE’Sアイズとしての自覚はない筈だ。

 リアはどこかで感じている節があるけど、一緒にいる事で能力が安定する可能性もあるし……悩ましい所だが、一緒にいてもらう。


「よし。それじゃあ帰るよ……」


「うん。今度はゆっくりできると良いね……クラウさんも、その……ミーティアやジルリーネさんたちも」


「――ああ。ありがとう……すまん」


 その言葉をはっした際の苦しそうな笑顔を、俺は見逃さない。

 だけど……アイシアの言葉を、俺は受け止めることにした。


 この状況でミーティアの事を口にするのは、アイシアにとっても考える事だったと思う。

 ましてやあの夜に俺が言おうとした事は、選択の話だったんだから。


「なんで謝るの?」


「いや。なんとなく、な」


「あはは……もう、変なミオ」


 笑うアイシアは、続けて。


「……気を付けて、帰ってきてね」


「ああ。それじゃあ……また」


 そうして俺は、【ステラダ】の帰路に行く。

 帰れば直ぐに試験がある……ミーティアの事もある。

 冬へは時間が無い。きっと、あっと言う間だ。

 だからこそやれる事を、がむしゃらにやるしかない。


 この秋の出会いと、そして今後来るかもしれない別れがおとずれないように、俺は進むしかないんだ。

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