6-66【秋の田舎に響く想い4】



◇秋の田舎に響く想い4◇


 リアの能力を探った。アイズはそう言ったが、その直後に眩暈めまいを起こしたのか、くらりと倒れ込んだ。

 俺は水をコップ一杯運んでくると、アイズに渡す。


「飲めるか?」


「ええ」


 震える手でコップを受け取り、コクリと一口。


「ざまぁないわね……命の期限はもう数年あっても、この体たらくよ。人の身体に堕とされたのは、そういう事だったのね……あのクソジジイ」


 ギュッとコップをにぎり、口惜しそうに歯嚙みする。

 俺は何も言えず、ただアイズの言葉を待った。


「……」


「……」


 リアは目を瞑って横になっている。

 もしかしたら、アイズが眠らせたのかも。


 そして少しの間が開き。


「でもまぁ、よかったじゃない?」


「……なにが」


 何も無かったかのように、急にアイズはおどけて。


「だって、【暴君蝕タイラント・エクリプス】よ?チート能力も真っ青の神の力……アンタ、戦ってよく生きてたじゃない。あ、この子が幼かったからかもね。もう少し大人だったら、絶対に勝ててないわ」


 まるでさっきまでのやり取りをなかったことにしようとするように、アイズは淡々と言葉を並べていく。


「おい」


「あーでも、【超越ちょうえつ】したアンタなら……成人した【竜人ドラグニア】ともいい勝負かもね、流石に龍王クラスには勝てないだろうけど」


「……アイズ」


「運いいわよね~アンタも。折角転生してもこんな子供に殺されたんじゃ、また転生したいとか言い出しそうじゃない?そんなの無理に――」


「もういいって!!」


「……」


 俺の大きな声に、アイズは止まる。

 その顔に影を差して下を向き……小さく答えた。


「……もう時間が無いわ。これを……見なさい」


 そう言って、アイズはみずからの手を俺に向けた。

 その小さく白い手は震え……サラサラと、魔力の粒子りゅうしに還っていた。


「……アイズ、お前……」


 これは……消えて、いるのか?


「これが創られた神の末路まつろらしいわね……これじゃあ魔物と同じだわ。今までのアイズレーンも、こんな気分だったんでしょうね……最悪だわ」


 俺はなんて言葉を掛けたらいい。

 きっかけを作ったのは、きっと俺だ。

 リアの事を聞かなければ、EYE’Sアイズの事を聞こうとしなければ、まだ猶予ゆうよはあった筈なんだ。


「そんな顔しないでよ。ほら……治まった」


 一瞬だけ半透明に見えたその手は、キラキラと光る粒子りゅうしを治めて元に戻った。


「……力を使えば使うほど、きっと頻度も増えるんでしょうね。人間の身体が神の力に耐えられない証拠しょうこだわ。神の身体は偉大って事よ……悔しいけど、でも……あたしは後悔しない」


「アイズ……俺は」


 戸惑とまどう俺にアイズはその手をフリフリしながら言う。


「いいのよ。アンタはアンタの思う通りにやりなさい……あたしは別に、今この瞬間に消える訳じゃない。アイシアもその子も、まだ時間はあるわ……まだ、ほんの少しだけれど」


「……俺はどうしたらいい、何をしてやれる?」


 アイシアの事、リアの事。

 そしてミーティアの事だってある。

 アイズの事だって、俺の中での立派な“自分の周囲”なんだ。


「強くなりなさい。それだけでいい」


 アイズは笑いながら言う。


「昨日も言ったけど、せめて自分の手の届く範囲は……守ってあげなさい。アイシアやミーティア……家族に友達。そう、大切にしていきたい人たちをね」


「……分かった、善処ぜんしょする」


「ええ、それでいい」


 その中に……お前は含まれているんだよな?

 その言葉を言えないまま、EYE’Sアイズの話を進められないまま、その日を終える事になる。


 そして俺の中で、重要な分岐点ぶんきてんになる事だけは確かな……【女神アイズレーン】の物語は、次の代へ継がれる。

 アイズの残り時間は、もう……風前の灯火ともしびのようだった。

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