6-5【常闇の者《イーガス》3】



常闇の者イーガス3◇


 クラウ・ラクサーヌ組が【常闇の者イーガス】の構成員と戦闘をしていた時を同じくして、ここは【ステラダ】。

 街の地下に広がる下水道の中……そこに、ミオ・トレイダ組が居た。


「……くそっ、あいつら……逃げ足だけはいっちょ前だなっ」


「だ、だね……疲れるし、臭いよ」


「それなぁ、なんで地下に逃げたんだか……」


 ミオとトレイダ……【幻夢の腕輪】で変身しているミーティアは、鼻をつまみながら嫌悪感をしめす。

 現在二人は、【常闇の者イーガス】の構成員を追っていた。

 しかし、これは別に依頼サポートでもなんでもなく、ミオが巻き込まれた……突発的なお願いイベントであったのだ。


「あのお婆様……平気かな?」


「どうだろ。盗まれたっていう物は、亡くなった旦那さんの遺品なんだろ?じゃあ、取り返してやんないとなっ」


「ふふっ……そうだね」


 ミオのその善人っぷりに、トレイダは笑みを浮かべる。


(そう言う所が、いいのよね……)


 食事をしていた所、同じ店で食事をしていた老婆ろうばが暴漢に絡まれた。

 店内はそれ程人混みは無く、話もよく聞こえた。

 目が合った……そんな事が理由で、その男二人は老婆ろうばに物品を要求した。

 当然老婆ろうばは拒否するが、男二人は老婆ろうばの所持品を奪って逃走したのだった。


 それに腹を立てたのが、少し離れた場所にいたミオだった。

 「野郎っ!」と声を上げて、ミオは追いかけようとした。

 しっかりと食事代を払い、老婆ろうばの説明を受けると言う律儀りちぎな事をして。

 それをせずに追いかけていれば、今頃捕まえられているのではないか……と言うツッコミは無しにしてあげて欲しい。


 そうして怪しく走る男二人を見かけたミオとトレイダは、下水に入る。

 暗さと臭いに耐えながら進み、今に至る。


「……お。いたぞトレイダ……あいつら、吞気のんきに葉巻吸ってやがる」


「本当だ。【常闇の者イーガス】って、そこまで稼げるのかな?」


 葉巻は何処どこに行っても高級品だ。

 ミオの村である【豊穣の村アイズレーン】でも、滅多に買える事はない。

 そんな高級な葉巻をプカプカと吹かす男に、ミオは。


「そうなのかも知れない、まったく言い御身分だよな……こっちは昔、葉巻を食って大変な目にあったってのに」


「――え」


 まだ赤ん坊だった頃の事を思い出し、ミオは憎々にくにくしく二人の男を見る。

 その珍しい告白に、トレイダは素でおどろいている。


「昔な、昔」


「そ、そうなの……」


 心配そうにミオを見上げるトレイダ。

 その表情はもう、ミーティアのものだ。


「それよりほら、あいつら……なんであそこで止まってんだろうな」


「……確かにそうだね。あ、でもあれ……あかりじゃないかな?」


 男たちがいる下水の奥にある通路には、鉄格子てつごうしがあった。

 その奥に見えるのは……小さな明かりだった。


「ホントだ……まさか、拠点きょてんか?」


「こ、こんな所に?」


 ミオとトレイダは、物陰に隠れながらのぞく。


「こんな所だからなんだろうな。下水に入って見た感じ、一般人の行き来はなさそうだし……闇ギルドらしいかもな」


「それは……まぁそうかも知れないけど」


 トレイダの考えを、ミオは理解出来る。

 こんな下水道の中にわざわざ居場所を作るな……そう言いたいのだろう。

 気持ちはよく分かるが、それが闇に生きるものという事だろう。


「――よし、じゃあ……さっさと婆ちゃんの大事なもんを取り返すか。トレイダは、ここで待っててな?」


「え……なんで?」


「いいからいいから。誰か来ないとも限らないだろ?見張っててくれ……頼んだぜ?」


 そう言って、ミオは右手に何かを出現させて、進んで行った。

 手に持つそれは、三十センチほどの……短い杖。

 【カラドボルグ】と同じ……ミオの転生特典ギフトという事だ。

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