6-6【常闇の者《イーガス》4】



常闇の者イーガス4◇


 こんなせまい所で、四人で戦うにはやりにく過ぎる。

 ましてやミーティアの武器は弓だ。相手の男二人は動きも早いし分が悪い。

 だから、あそこで見守りだ……他の奴らが来る可能性もあるしな。


 もしこんな下水にミーティアが落ちたりなんかしたら、申し訳ないし。


「――よう、あんたら」


 俺は逃げてた二人に声を掛ける。

 葉巻を吸ってた二人はおどろきつつも、吸っていた葉巻を投げ捨て。


「だ、誰だっ!」

「――てめぇ……さっきの店の!」


 一人は店の中で俺も見ていたようだな。

 もう一人は、追いかけられてた事すら気付いてなかったのか。


「まさか、あのババアの差し金かっ!?」


「お前らが勝手に因縁付けて、勝手に盗んで行ったんだろ……なにが差し金だよ。それだな、あの婆ちゃんから盗ったものは」


 俺は左手で一人の男の足元に置かれた、それを指差す。

 日本風に言えば、巾着袋きんちゃくぶくろ……紐でしばってあったものを、この男たちが無理矢理やぶったかのようになっていた。


「だから何だってんだ!てめぇに関係ねぇだろうがっ!」


 はい認めた。


「関係なくても、窃盗だろ……普通に捕まるっつの」


 なんとも馬鹿な発言だよな。

 もしかして、【常闇の者イーガス】の奴らはこんなんばっかなのか?

 ハーフエルフの少女、キルネイリア・ヴィタールの両親の命を奪った事件に関与していると聞いたが、それが本当か疑わしく感じるな。

 もしくは……こいつらが本当の本当に、末端まったんか……だな。


「うるせぇ!!おい、このガキ黙らせるぞ!アレもってこいっ!!」


 お?何かするつもりか?

 そう簡単にさせないっての。


「――【ミストルティン・・・・・・・】」


 俺は右手に持った物……そこら辺に落ちていそうな木の枝を鉄格子てつごうしに向け、一言短くその名をつぶやく。


「おう、任せろ!――うっ、な!おい、鉄格子てつごうしが開かねえ!?」


 命令された男が鉄格子てつごうしの向こうに行こうとしたが、鉄格子てつごうしはビクともしなかった。


「無駄だよ……もうアンタらは何も出来ない。大人しくその袋を返せよ……そうしたら、怪我もしないで独房どくぼうに行ける」


 俺はニッ――と笑って、勝利を確信する。

 成功だ……解放された俺の新しい転生特典ギフト――【ミストルティン】。


 この宿り木の杖は……先月、夏の終わりに解放されたんだ。

 【叡智えいち】さん……ウィズが言うには、俺の魔力が上昇したからって理由だが、それだけじゃないとも思うんだよな。

 ウィズに追及したところで、だんまり決め込むに決まってるけど。


『――そんなことはありません。適切な解説はしました……ご主人様が聞かなかっただけです』


 はいはい……そうやって、俺が眠い時や疲れてる時を狙って言ってくるんだもんな。それがお前のやりかたなんだろ?もう慣れたよ。


『……ノーコメントです』


「お、おい!どうすんだよ、鍵鍵!」


「知るかよ、その鉄格子てつごうしは鍵かけないって言ってただろ!力込めろ!!」


「込めてるよ!押しても引いてもダメだから言ってんだろ!」


「なら横とか!隙間から入るとかしろよ!」


「無茶言うな!!この隙間に入れる人間がいるか!?俺はネズミかよ!!」


 男二人はコントのようなやり取りをしているが、こっちはもう何時でも何処でも【無限むげん】使えるんだ……もう、ちゃちゃっとやっちまうか。


「……【ミストルティン】――【石の鉄槌ストーンハンマー】」


 下水道の天井てんじょう部分を……【ミストルティン】の力で切り離し。

 その切り離した数個の石を、落下途中に【無限むげん】で変化させる。

 勿論もちろん、【叡智えいち】ことウィズがアシストをして、一瞬でだ。


「――がっ」

「――ぎゃ!」


 落ちてきた石鎚せきつちは二人の男の脳天に直撃し……二人は気絶。

 グラァ――と身体を傾かせて、下水に落ちた。


 ドボーン――!!


「おわっ!……ぶねぇ……」


 下水を被るところだった……汚れじゃ済まんぞこの野郎。


「――ミオ……終わった?」


 トレイダが来る。

 終わったと悟ったようだな。


「ああ……終了だ」


 俺はボロボロになってしまった袋を拾い、振り向く。

 さてと、後は地上に戻って警備隊にでも報告して。


『――ご主人様。奥へ進むことを推奨すいしょうします』


 は?奥って、この鉄格子てつごうしの?

 そんなウィズの言葉に、俺は鉄格子てつごうしの隙間から奥をのぞく。

 そこからは、紫色にかがやく怪しい二つの光が、俺を見ている……そんな気がしたんだ。

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