エピローグ5-2【全て狙って、そうして奪っていく】



◇全て狙って、そうして奪っていく◇


「全員離れろっ!【アルキレシィ】の下だっ!!」


「――この魔力、まさかフドウくんっ!?」


 まさかアイツ……今の今までずっと、隠れてやがったのかよ!

 先にここまで来て、【アルキレシィ】が俺たちが来る前に反応したのは、ユキナリの奴に反応していたからか!


「出てこいユキナリっ!!何が目的だっ!」


 俺は叫ぶ。

 ユキナリの奴……不気味以外の何物でもないぞ、【アルキレシィ】が目的じゃなかったのかよ。


 【アルキレシィ】を倒して、高難度依頼クリアのポイントが目当てなんだと、俺は思っていた。

 ならば、【アルキレシィポイント】が俺たちに倒されたのに、今更現れる理由はなんだ……?


「ユキナリっ!!」


 大きな声で、俺は怒っているように思える程の声音で叫ぶ。

 まるで怒号だ……らしくない。


 そして、その不気味な男は……俺の叫びに反応した。

 【アルキレシィ】の亡骸なきがらの、その真下から。


「――やれやれ……そのまま帰ってくれれば、面倒臭めんどうくさくなくて済んだのになぁ」


 あきれのような、残念さをにじませたかのような、そんな声が。

 その声と同時に――【アルキレシィ】の影が動いた。


「なんだ……っ!?」


「影が、うごめいて……?」


「吸い込まれて……行きます……」


「なん、なの??」


 俺、クラウ姉さん、イリア、ミーティアの順だ。

 不可思議な現象に、理解が追い付かない。

 【アルキレシィ】は影に移動できたが、もう事切れている……もう自分から動くことは無いのだ。

 だが現に、こうして沈んでいく……イリアの言うように、吸い込まれていくように。


「……消えたわね」


「そう……ね」


「だけど、ユキナリの奴の魔力はある……その、中に!」


 クラウ姉さんは慎重に、ミーティアもクラウ姉さんの言葉にうなずく。

 しかし俺は、もう待てなかった。

 慎重なんて言葉を微塵みじんも感じさせない様に、俺は右手に持った小石を投げる。

 消えたはずの【アルキレシィ】が残していった、影に。


 ブン――


 小石は、音もなく影に吸い込まれる。

 そして……


「――いてっ!……おいおいミオっち、石投げんなよ」


 ズズズ――っと、残った影から現れる……ユキナリ・フドウ。

 石が当たったのか……頭頂部をさすり、笑みを見せながら。


「ユキナリっ……お前、何が目的なんだよ……今まで、そこに居たってのか!?」


「フドウくん、説明を。さもないと……」


 俺もクラウ姉さんも、戦闘態勢にいつでも移行できる。

 魔力もまだ行ける、こいつが完全な敵対心を見せない限りは……


「ちょ、ちょっと待とうぜっ!そんなに殺意見せるなよ、ミオっち!」


 俺……?クラウ姉さんだろ、殺意出すのは。

 ギュッと拳を握り、歯を食いしばっている事にも気付かず……俺は言う。


「答えろユキナリ……今まで何をしてた!?」


「……なんだミオっち、どうしてそこまで興奮こうふんしてんの?」


 嘲笑あざけわらう様な、そんな上から目線。

 少なくとも俺にはそう見えた。

 落ち着け、こいつのペースに飲まれるな。


「……別に。先に向かったお前がいなかったから、どこかでポカして死んだんじゃねぇかって思ってただけだよ」


「――ぷっははは!そんな訳ないだろ、俺は転生者だぜぇ?」


 こいつ……堂々と宣言しやがって。

 俺とクラウ姉さん以外もいるんだぞ。


「フドウくん、やめなさい……今は」


 【クラウソラス】の切っ先をユキナリに向けて、クラウ姉さんが言う。

 結構な魔力を籠めた圧だ……だけどユキナリは意に介さず。


「なぁんで。俺は普通の……当然の事を言ってるんだぜ、ミオっちの姉ちゃん」


 クラウ姉さんはこいつを追いかけて先に会ってる。

 その時に何か話したな……?


「それを私たちに当てはめないで。貴方の考えだけが当然なんかじゃない……それを分かりなさい」


「……へぇ」


 クラウ姉さんは冷静だ。

 冷静にさとせるだけの余裕がある。

 それに比べて俺は……


「影の中で何をしていたの……?もしも、私たちに害があるようなら……」


「――ちょっと待ってくれって……だから、俺も待っててやった・・・・・・・んだろ?」


「……なに?」


 待っていた?俺たちが、【アルキレシィ】を倒すのをか?


「言っただろ、討伐の依頼だって……だから、待ったのさ。俺にとっては、ある歴史の身体さえ残ってればいいからなっ」


「……あ、ある歴史??」

「……はぁ?」


「もしかして、【アルキレシィ】って言いたいのかしら」


 なるほど……この馬鹿。


「ああそう!【アルキレシィ】だった!何度も間違えるなぁ……言いにくいんだよ……っと!」


 お前、以前も間違えたのかよ。


 ユキナリは言葉と同時に、影から跳ねた。

 影はユキナリについて行かずに、そのままその場にとどまり……そしてゆっくりと消えた。


「俺の目的は、別にあの魔物を倒す事じゃねぇから。だからミオっちたちが倒すまで待ってたのに、おっかしいよなぁ……俺、ちょっとの魔力しか出してねぇのに」


 俺が影の下の魔力を感じた事か。


「なら、何が目的だったんだよ……なぜ今出てきた」


「……う~ん、まぁいいか……」


 ユキナリは少し考えて、そして言う。


「俺は……魔物の能力を手に入れる力があるんだ。その為だよ」


「魔物の力……お前の魔法か?」


 ここは少しぼかすか。

 ミーティアたち、転生者に関わっていない人が四人もいるからな。


「魔法……まぁそんなとこだよ。って訳で、先制攻撃だけ入れさせてもらったんだ、【アルキレシィ】、起きてただろ?」


 【アルキレシィ】が俺たちが来る前から反応したのはそのせいかよ。

 その後は、身を潜ませて【アルキレシィ】を倒されるのを待ってたのか。


「その後は、ミオっちも思ってるように……影の中で身をちぢこませてた。だから感謝して欲しいくらいだけどなぁ、その子……目的を倒せたんだし?」


「それは……」


 確かにそうだ、そうだけど。

 なんなんだ、この感覚……今こいつを放置してはいけない気がして、心の奥が震える。


「――ってな訳で!俺は帰るよ、【アルキレシィ】の力もゲットできたし、二人・・の力も見れたし……な」


「お前……!」

「フドウくん……」


「かっははははは!ギョリノフって奴だ!!ごちそーさん!じゃあなっ!」


 シュバッと手を俺たちにかざして、ユキナリは去ろうとする。


「――おい!ギョリノフって誰だよ!!」


「かっははははは!はははは……――」


「……行っちゃったわね」


 颯爽さっそうと去っていく黒髪の男。

 残ったのは、俺たち六人だけ……マジで何だったんだよ、アイツ。


「ギョリノフって誰だっての……」


「……あ。もしかして」


 なにさ、クラウ姉さん。


漁夫ぎょふの利って言おうとしたんじゃ……」


「えぇ……」


 困惑だよ……言い間違いしたのか、こんな最後に。

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