5-119【黒き獅子と半端な子17】



◇黒き獅子と半端な子17◇


 【アルキレシィこいつ】、イリアを喰おうとしてやがった。

 きっと、ハーフでも分かるんだ……同じ血を持った、力のある存在だと。

 自分を進化させた、えさだと。


「だけど、お前もそろそろ限界なんだろ……?」


 俺は【カラドボルグ】を向けながら、挑発するように言う。

 【アルキレシィ】は「ガルル……」とうなりながらイリアを見ている。


「そうかい……俺の事はもう見えてない訳ね」


 俺は魔力を全開に籠めて、【アルキレシィ】の左角を目掛けて【カラドボルグ】を振るった。

 その黄金の刀身に、【煉華れんげ】の炎を纏わせて。


 ザン――っと、いとも簡単に左の角は切断された。

 もう魔力はほとんど残ってないんだろう。

 防げるだけの防御力も皆無……残っているのは、イリアを喰おうとするその意志だけだ。


「さっきのクラウ姉さんの攻撃で、もう魔力も使い切ったんだろ……角が折れたのも原因か?お前はもう……ただのデケェ猫だよ」


「ガルッ――グルルゥゥゥゥ!!」


 動きも鈍い。

 身体も震えている……影で移動し、ロッド先輩とグレンのオッサンを吹き飛ばした時点で、最後の力だったのかもな。

 そこでイリアを喰えなかったのが……決まり手だ。


 ズン――と、肘から崩れる【アルキレシィ】。

 やっぱり、もう動けない……最後の悪足搔わるあがきだったんだ。


「イリア……剣を」


「え?」


「――違う違う。俺が攻撃するんじゃないよ……」


 念の為に【アルキレシィ】の挙動きょどうを確認しながら。

 事前にイリアの剣は、俺が【無限むげん】で強化しておいた……だからさっき、このライオンの攻撃を防げたんだ。

 もし、強化してなかったら……今頃。


「ど、どうぞ……」


「サンキュ。一瞬で終わるからさ……――はい、終わった」


「え……え?」


 瞬きした瞬間に、イリアの剣は更には強化された。

 短剣よりは長く、普通の剣よりは少し短い。

 切っ先は日本刀にように反っていて、投擲とうてきに適した剣だ。

 ブーメランのように返ってくる【念動ねんどう】を考慮こうりょしたにぎり手……それに合わせたかのようなガントレット。


「言ったろ?お前が倒すんだ……【念動ねんどう】でこいつにトドメを刺して、力があると示すんだよ」


 イリアに剣を返す。

 【アルキレシィ】は息も絶え絶え、もう立ち上がれもしない。


「その剣はイリアの意思だ……この剣で、両親のかたきを」


「私が……二人の」


 あおる訳じゃないけど、これでイリアも先に進める。

 この親のかたきと言う存在を打ち倒す事で、今後の生き方が変わるのなら、少し無理してでもやらせるさ。


「そうだ。両親のかたきを……討て!イリアっ!」


「――っ!!」


 未だ、最後の力を振り絞って立ち上がろうとする【アルキレシィ】。

 反撃したいならすればいいよ……俺が防ぐから。

 もう積みなんだよ、転生者おれたちを敵にした時点で……いくらこの世界で亜獣だなんだって言われ、恐れられようがな。


「あああああああっ!!」


 目を見開き、イリアは二本の剣を投げた……最後の力で反撃されないように、【念動ねんどう】でトドメを刺すんだ。

 頭部、そして心臓。今の弱った【アルキレシィ】なら、強化した剣で貫通も出来るだろう。


 空中で加速する二本の剣は……怒りと悲しみを表した赤と青。

 何度も涙に濡れたであろう瞳は、ようやくその時を果たす。


 「グルワァァァ!!ガルル……グワゥッ……グ……」


 怒りの赤い剣は頭部に突き刺さり、悲しみの青い剣は心臓を穿うがつ。

 絶命するその時まで、イリアは一切目を離さなかった。

 小声でつぶやくその言葉を、俺は聞いた。


「……お父さん、お母さん……」


 かたきを……討ったよ。


 イリア一人では、一生を賭けても出来なかっただろう。

 今回だって、最後の一撃を与えたに過ぎない。

 今回の騒動は、イリアが周りを巻き込んだとも言える……でもそれは、俺が決めた事だ。

 彼女を応援したいと思って、それを成し遂げてあげたいと思った俺の、我儘わがままだ。


「……」


 ほほから伝う涙は……今後はもう悲しみではない、違うものだ

 お疲れさまだよ……キルネイリア・ヴィタール。

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