5-10【譲渡2】



譲渡じょうと2◇


 今回の依頼サポートに出る前日に、俺は部屋で一人で座禅ざぜんを組んでいた。

 ミーティアはすでに家に戻っていて、完全に一人きりだ。

 普通の青少年なら、「やっほー自由だーあっはっはー」って言って一人を謳歌おうかするんだろうけどさ、俺はそうもいかないんだ。

 え?偏見へんけん……仕方ないだろ、前世の俺がそうだったんだから。


 それに……誰もいない時でないと、転生者としての行動をしない様にしていたからな。


 スゥゥゥゥ――


『……ふぅ~。集中……集中だ……』


 ベッドの上で目を閉じて集中する。

 以前もやってるから、導入だけは簡単だ。


 真っ暗な空間に……俺一人。

 少し待つと、小さな光がただよってくる。


 この光が――能力だ。

 俺がいくつも持っていると言う、転生の特典ギフトだな。

 コイツ等さ、俺の能力のクセに我儘わがままなんだよ。


 【無限むげん】【豊穣ほうじょう】【美貌びぼう】、【強奪ごうだつ】【譲渡じょうと】に【極光きょっこう】【丈夫ますらお】【煉華れんげ】【破壊はかい】。


 【カラドボルグ】以外は能力だな。

 ポンコツ女神いわく、その全てはレベル99の最上限……初心者には無理無理。

 俺だって、把握はあくしてても一気には使いこなせないんだからな。


 なら、目指す所は……新たな能力だ。

 しかもチート能力ではない……この世界の人間なら誰でも使える様なもの、イリアに渡すならそれがいいはずだ。


『……』


 【感知かんち】のような、冒険者なら誰でも使える様になる能力。

 それもきっと、この中にはあるはずなんだ。

 蛍のように揺らめく能力の光……大きくかがやくのは、チート能力だとしよう……違うかもしれないけどさ。

 それ以外の小さな光……消え入りそうな程に小さな光に、俺は手を伸ばす。


『これだっ』


 鷲掴わしづかみにする。心の中でな。

 小さな光は浸透しんとうしていき、ゆっくりと俺の中で覚醒した。


『――痛ってっ!!』


 目を見開いて、俺は左胸を押さえる。

 心臓が……爆発するかと思った……なんだよ急に。


 ああ、もしかして……本来ないはずの物を、無理矢理引っ張り出したからか?

 そのせいで心臓が痛くなったのかも。

 子供の身体には負担ふたんだったのかな。


『へへ……でも、これでいいさ……』


 あとは【譲渡じょうと】を使って、この能力をイリアにゆずり渡すだけだ……あー、心臓いてぇなぁ。


 そしてこの時、俺は気付かなかったんだ。

 イリアの為に無理矢理開花かいかさせた小さな能力に……他のチート能力の何かが……隠れてくっ付いていた事に。





 回想終了だ。

 さて、続けようとしようか。


「私に、力を?」


 俺の話を聞いて、イリアがマジでおどろいている。

 ん~いや、おどろくよりも……不思議ふしぎがってるのかな?


「ああ。魔法って言うか能力って言うか……とにかく、使いこなせるかはイリア次第だぞ?」


「いや、でも……え?あの……はぃ?」


 戸惑とまどってるな……そうだよな、そりゃそうか。

 力をさずけるだなんて……何様だよな?よく考えれば、俺も思うよ。

 だけど、何も言わないで納得してくれないか?


「……ミオは――どうして、そこまでしてくれるのですか?」


 おお……それを考えていたのか。

 確かに、変だよな。

 自分にそこまでしてくれるだなんて、思わないよ……普通。


 でも……


「――どうしてって……う~ん、どうしてだろうな」


 俺は笑う。

 笑うしか出来ん。


「だ、だろうなっ……て、分からないのですか?」


 分かんないんだよね……不思議ふしぎだろ?

 俺はただ、頑張る人の力になりたい……そんな自分が好きなんだと思う。

 我儘わがままで自分勝手、そんなお節介野郎なんだよ。


 イリアは迷惑だって思うかもしれないけどさ、でも……タダでもらえるものだと思って、受け入れてくれよ。


「あはは、分かんないわ。不思議ふしぎだよな……でもさ、只より高い物はないって言葉があって、俺がやるって言ってんだから……大人しく受け取るがいい!」


 俺は問答無用で押し付けるつもりでいる。


「え、ちょっ……ミオ!?」


「いいからいいからっ」


 俺は誤魔化ごまかすように笑顔を見せて、イリアの手をつかむ。

 さぁ始めようか――【譲渡じょうと】のお披露目だ。

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