4-44【お得意様】



◇お得意様◇


 【ギルド】で依頼も受けた事だし、早速出発だ。

 一年生の初依頼という事で……歩きで、だが。


 そして現在、【ステラダ】の道具屋でアイテムを買い出し中である。

 俺の隣にいるトレイダことミーティアは、【クロスヴァーデン商会】以外の店で買い物をするという事で、非常に慎重になっていた。

 【魔法符】貼ってなかったもんな、この店。


「むむむ……うちの方が安いのになぁ」


 小声で言うトレイダ。こらこら、聞こえちゃうよ?


 しかし、同じ商品でも店によって値段が代わる。

 これは何処どこの世界でも一緒だな……仕入れ先や従業員のコストによって、品の値段を決めているのだろうな。


「えっと……どれどれ」


 店の【魔法符】を確認すると、【ラビッタ・ファクトリー】という名の【魔法符】が貼ってあった。


「【ラビッタ・ファクトリー】……?」


「【クロスヴァーデン商会】よりも古参の、有名なアイテム工房さ……悔しいけど、品質はいいよ」


「ファクトリー……工房か、なるほどなぁ」


 俺は陳列ちんれつされている商品を見てみる。

 薬草に爆薬、アクセサリーに魔物の素材を加工した道具……何に使うんだこれ?

 様々な物があるが、【クロスヴァーデン商会】との差は……値段が若干高額な事と、物の種類だな。


 【ラビッタ・ファクトリー】には、日常品や食料のあつかいがない。

 【クロスヴァーデン商会】は、そう言ったニーズで……一般人が購入しやすいものが多いんだ。

 【スクルーズロクッサ農園うち】の野菜とかな。


「いいっしょ。ここの商品は、昔から人気があるんだよ~。私のお気に入りの店なんだよっ」


 横にいる先輩が赤毛を指でクルクル回しながら、「へへ~」と笑う。

 随分ずいぶん嬉しそうですね、レイナ先輩。


「――品質はいいですけど、値段はどうですか?」


 おっと、トレイダは反論があるようだ。

 自分の家である【クロスヴァーデン商会】の方が、仕入れ値も販売価格も安いと言いたいのだろうか。でも、今はトレイダ・スタイニーだろ?

 それに同じ薬とはいえ、同商品ではないし……比べるのも難しいのではないか?

 畑違いとは、よく言うやつだよ。


「傷薬は【ラビッタ・ファクトリー】でしょ~、安けりゃいいってもんじゃないって」


「で、ですが【クロスヴァーデン商会】の薬は品質もいいですよっ!仕入れ先と専属契約している事で、コストを削減出来ています!オンリーワンの商品だって沢山ありますし」


 確かに、うちの野菜も専属契約だな。

 基本的には【リードンセルク王国】や近隣諸国、それ以外にはおろしていない筈だ、まだ……な。


 ちなみに、自国である【サディオーラス帝国】にはおろしていない。

 最初のころはディンさんが野菜を売っていてくれていたが、馬車での移動と野菜の品質保持が問題だったんだよな。

 それに比べて、【クロスヴァーデン商会】の管理は完璧だったんだ。


「それに、独自の管理法で鮮度を保つ方法があるらしいですし」


「それは食べ物の話じゃない……今は薬でしょ?」


 それはそうだ。

 だが、少し場を考えよう。

 ここの店は【ラビッタ・ファクトリー】の契約店だ、視線が痛い。


 俺はトレイダの肩に手を置き言う。


「トレイダ、落ち着けって……まずは準備をしよう。道すがらでもゆっくり議論すればいいさ。お得意様なんて、誰にでもあるんだからさ?」


 ハッとするトレイダ……やっぱり、自分の所が一番だって思いはあるんだろうか。


「……う、うん。すみません……レイナ先輩」


「あははっ、いいよいいよ~」


 でも……ミーティアも意外だったな。

 こういう熱い面もあるのか……流石さすが、大商人の娘だ。

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