4-29【緊急試験】



◇緊急試験◇


 正直言って……会場は騒然そうぜんとしていた。

 遅れてやって来た、最後の新入生――ユキナリ・フドウ。


 今から……この男の緊急試験が行われるんだ。

 二年の生徒、しかも主席の先輩が……いくら自主性が大事とは言え、いいのかよこんな事態。


 相変わらず、教官や少ない三年生は見て見ぬ振りだ。

 観察はしているが、手出しはしないというスタンスか。いいのかそれで。


「――その余裕、直ぐに後悔することになるぞ……」


 カツカツと歩く二年首席のオズマさん、完全に怒ってるって。

 早いとこ謝ればいいのに、こいつ……何考えてんだ?


「はぁ?いやいや、やられても後悔はしないっすから!自分の正直に、素直に行動してるだけだし……それより、先輩さんが後悔しないか不安っすね~」


 ――ピキリ。


 俺にも聞こえたよ……って言うか、二年三年の先輩全体を敵に回すセリフだろ……今の。


「そうか、なら……遠慮えんりょは要らないな」


 オズマさんは腰からグローブを取り手にはめる。格闘か。

 筋骨隆々きんこつりゅうりゅうにピッタリだよ。


「……あ~。どうすっかなぁ」


 黒髪の男……ユキナリ・フドウは、何かを考えるように腕組みをして。


 ん?なんだ?


「……ミオ。よく見てて」


「あ、ああ」


 クラウ姉さんは真剣だ。

 集中して、ユキナリって奴の出方をうかがっている。

 俺も集中しないと……こいつが転生者だってんなら絶対に、能力か武器……どちらかがあるんだからな。


「――どうした新入生。怖くなったか?」


 考え込むようなユキナリ・フドウに、オズマさんが言う。

 確かに、少し雰囲気ふんいきが変だ……なにか悩んでいる?そんな素振りに感じるけど。


「へ?ああ……どうやって倒そうかなって」


 ど、どこまでも余裕を見せるじゃないか……そんなの、オズマさんの怒りに油を注ぐだけだぞ?


「……ふん。構わん、どうやってでもかかってくればいい……これは試験なんだからな。いいですね教官、許可を」


 オズマさんは目で試験官に合図する。

 多分、審査を頼んだんだ。


「許可します」


 眼鏡の男性教官がうなずく。

 いや本当にいいんだ、それで。


「そっすか?なら……【グリフォンネイル】!」


「「……魔力っ!」」


 おお~!っと、周りから歓声がく。

 ユキナリって奴が言葉にしたそれは。

 右腕に魔力が集積しゅうせきし、可視化した大きな爪となって出現した。


 グリフォン……って幻獣だよな?その爪?

 禍々まがまがしい。

 でも、魔力だってなら……クラウ姉さんの【クラウソラス】と同じタイプか?


「――おっとっと……こらぁ!落ち着けって!この暴れん坊さんめっ!」


 ひ、引っ張られてる?腕に。

 まさか生きてるのか?あれ。


「――ふざけているのか?小僧」


 そりゃあオズマさんも怒るよ。

 初めから怒ってたけど。


「いやいやっ!ふざけてるように見えるっすかっ!?どう見ても困ってるでしょ!!」


 いや……普通の奴からしたら、どう見てもふざけてるようにしか見えないって。

 まるでパントマイムだよ。


「まぁいい……試験の開始だ。遠慮えんりょはせんぞっ!!」


 オズマさんが飛び出した。

 流石さすがに速い……だが。


「おっと、へへへっ」


 ひょいっ――ひょいっと、オズマさんの素早いパンチを軽々とけるユキナリ。

 笑ってるし。こいつ……余裕ありすぎだろ。


「くっ……こいつっ!舐めた真似をっ!」


「お~怖っ!先輩さんって何歳っすか?見たところ……三十歳くらいかな~?」


 ビキリ――と、オズマさんの眉間のしわが増えた。

 青筋とも言うかな。


「――貴様ぁぁぁぁ!俺はまだ二十歳だっ!!」


 そりゃ怒るだろうよ。あいてが女性じゃなくて良かったね。


「マジすか!?見えねぇぇぇぇ!!」


 笑顔でおどろいてやがる。

 こ、こいつ……さては空気が読めないな?

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