3-68【急転する村5】



◇急転する村5◇


 頭をさするジェイルに、ジルさんが何度も小突いている。

 案外仲いいのか、この兄妹。


 とか言いつつも、そんな事を言っている場合でもない。


「――ジルさん、この村が女神の加護を受けていた事、知ってたんですね」


「ん?ああ、わたしは一応エルフの王女だ。そう言った事は心得ているよ……っではなく!どうしてその結界が」


「く、首が……ジルっ!」


 八つ当たりのように、ジェイルの首に腕を回して絞めていく。

 緊急時じゃなければ、うらやまし……ではない。


 悪いけど、それは誰も知らないんだよジルさん。

 本人ですら、混乱するほどなんだからな。


「分かりません。俺も、アイズに聞いたんです」


「アイズ殿に……?」


「ええ。魔法で、教えてくれました」


 俺の言葉に、絞められたままのジェイルが。


「――感知や探知の魔法か。しかし、この村全体……いや村の周辺をおおっていた結界だぞ?それを感知とは……どれほどの」


 だよな……そうなるわな。

 でも、アイズ。


「――それは、わたくしの固有魔法……【拡張探索エクステンションサーチ】によるものです」


 クラウ姉さんと話を終わらせて、アイズがジルさんとジェイルに答える。


「――こ、固有魔法っ!?まさか、それほどの実力者だったのかアイズ殿は!」


「アイズで構いませんわ……ジル」


 固有魔法か……っと、俺はそれどころじゃないな。

 ジルさんとジェイルへの話はアイズに任せるとして。

 俺はクラウ姉さんだ。


「……ミオ」


 うわ……すっげぇ不審ふしんな顔だ。

 アイズの奴、クラウ姉さんに何言ったんだよ。


「な、なに?クラウ姉さん」


「その剣、なんて説明された?」


 聞いてくるかぁ……アイズが何て言ったかだよなぁ。

 いや、説明は関係ないな。

 この状況を切り抜ける為に、力を借りたって言えばいい。


「アイズは、外国の凄い魔法使いだって……だから、村を守れる力をくれたんだよ。この剣もアイズがくれた……これなら僕でも使えるからって」


「……」


 クラウ姉さんはアイズに一瞬だけ目をやり、そして俺の肩を引き寄せる。

 こう――グイッッ!!と。


 そして耳元でささやく。


「――あの女には気を許しちゃ駄目だめよ。今だけはいいけど、絶対に深入りしないで。いいわね」


「……――う、うん」


 ゾッ――とした。

 まるでクラウ姉さんじゃないみたいだった。

 感情の冷めた低い声音こわね、反論を許さない圧倒的な視線。


 これが……クラウの前世、その本質。

 そう……感じた。


「分かったよ、姉さん……気を付ける」


 今回は、アイズのおかげで転生者バレは防げたらしい。

 だが、クラウ姉さんは確実に怪しんだはずだ。


 アイズが俺に武器を渡した事、それをなんなく使う俺……おかしいよな?どう考えてもさ。

 でも、今は追及ついきゅうされない。

 クラウ姉さんも、アイズに色々と聞いたんだろう。

 転生者として……な。

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