3-50【皆で朝食を1】



◇皆で朝食を1◇


 外にいるアイシアは、ご機嫌で野菜に水をあげていた。

 だから俺も手伝おうかなぁ……と思って。


「――アイシアっ」


 声を掛けた――のだが。


「……ふっふ~ん♪――わぁぁぁっ!」


 跳んだ。アイシアが跳んだわ。

 ご、ごめん、ビックリしたか。

 機嫌よさそうに鼻歌歌ってたのに、おどろかしてごめん……まさかそこまでおどろくとは思わなくて。


「――よっと」


 アイシアがおどろいて投げ出してしまった如雨露じょうろを、俺がキャッチ……やっぱり、物凄く動ける。

 3メートルくらいの距離を跳んだな、ほんの少し動いただけなのに。


「ミ、ミオ~……ビックリしたよぉ」


「ご、ごめんって。そこまでおどろくとは思わなくてさ、野菜に水をやってくれてたんだね」


 スクルーズ家のだけどな。


「う、うん。いいのは台所に置いてあるよ」


「ああ。見たから来たんだ……ほらっ」


「……うん」


 俺はアイシアの手を取って起き上がらせる。

 ビックリして尻餅をついていたからな。


「……そう言えば、ミーティアが来てるんでしょ?あそこ」


「あー、うん……一昨日おとといからね」


 俺はアイシアに如雨露じょうろをお返ししながら答える。


 アイシアは多分、自分のお母さん……リュナさんから聞いたんだな。

 その日はリュナさん、うちにいたし。

 そう言えば、昨日はいなかったけど……アイシアは何をしてたんだ?


「この村に住むんだってね……大丈夫なの?」


「……どうかな。本人は楽しみらしいけど。でも個人的じゃないよ……仕事が中心だからさ」


「うん、聞いた……農園従業員の管理をしてくれるんだってね」


 そうだ。ミーティアの仕事とは、これから増える従業員の管理だ。

 父さんとリュナさんが共同で経営する【スクルーズロクッサ農園】。

 うちの野菜は、今や隣国……【リードンセルク王国】中で大人気だ。


 収穫量も多く品質も最高、しかも季節や環境かんきょうに負けない異常な野菜たちだ。

 当然バカ売れであり、こちらの収穫が追い付かないほどになっていた。

 そこで父さんが打診したのが、従業員の増員だ。


 ミーティアの父、【クロスヴァーデン商会】の会長さんがこれを引き受けてくれて、近いうちに【ステラダ】から働き口を探していた若い人たちが来る予定なのだ。

 ミーティアは、その管理人をしてくれる。

 期間はそれほど長くなく、落ち着くまでらしいけど……いつまでと言う期間はまだ不透明なんだとか。


「怒ってる?」


 アイシアには何も言わなかったもんな。

 でも、その日まで俺も知らなかったんだぞ?


「え?怒ってないよ~……ビックリはしたけど、でも大事だと思ったから。わたしも賛成」


 笑顔で受け入れるアイシア。

 本当に……いい子だな。


「そう言えば、この家におどろかないの?」


「え……いや、おどろいたよぉ。昨日までなかったのに、急に朝になったらあるんだもん」


 だよなぁ。

 家が一夜で建ってたら、そりゃあおどろくさ。

 まるで一夜城……規模は全然だけどな。


 どうでもいい話や昨日の話、さりげない情報のやり取り。

 そんな俺とアイシアののんびりとしたひとときに……先ほど話の的だった人物が。


「――あ、ミオ……アイシア」


 カチャリ――と、急造で建てた家から出てくる、青髪の女の子。


「……ミーティア。おはよう」


「おはよう、ミーティア」


 寝癖をササッ――と直しながら、恥ずかしそうに笑う。

 そうか、俺が外に出てるとは思わなかったんだな。

 油断したなミーティア、その可愛い仕草……目に焼き付けたから。

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