3-8【自室!そう、ここは自室だ】



◇自室!そう、ここは自室だ◇


 ミーティアと父さんたちとの話し合いはまだ続くらしく、手持ち無沙汰ぶさたの俺はジルさんを自分の・・・部屋にまねいた。


「――おお、ここがミオの部屋か」


 そんなにジロジロと見ないでくれ。

 普通に恥ずい。


「あ。ところでジルさん、資材って何なんですか?」


 引っ越しするにしても、この【豊穣の村アイズレーン】には空き家が数件ある。

 亡くなって空き家となり、後継ぎのいない家だ。

 そこでは駄目だめ……なのだろうな、そりゃそうだ。

 それに……うちの隣だから価値があるんだろうしな。


 これはきっと、ミーティアの考えだ。


「うん?資材は資材だよ……建築けんちく材料さ」


 それは分かったよ。

 だから、なんでそこまですんのって話さ。


「どれくらいの時間をかけるつもりなんですか?家を建てるなんて、そんなに簡単じゃない事くらい、ミーティアもジルさんも分かってるでしょう?」


「ああ。もちろんだよ……だから資材を持って来てのさ」


「……え?」


 なんすかその視線。


「ふふん……」


 ニヤッ――と笑うジルさんの、何とも言えない蠱惑こわくな表情は、二百歳を超えた女性には到底見えず、まるで悪戯いたずら好きの小娘のようだった。


 ちょっと、俺を見てどうすんのよ?

 おいおい、まさか……俺に建てろってか?

 言っておくけど、俺にはそんな知識無いぞ……?


「キョトンとしているなぁ……まだ分からないか?」


 全然分かんねぇって。

 俺は椅子に座り、入口に仁王立ちするジルさんを見る。


「……なんなんです?」


 俺は考えを放棄ほうきして、ジルさんに直接聞くことにした。


「――むぅ、仕方がないな」


 あれ、なんかあきれられた?

 そんなに変な事、言ったか?


 ジルさんは、腕を組んで言う。

 鎧じゃないから、大きな胸が腕に乗っかっておるよ……けしからん。


「――ミオ、君の魔法……それを使ってもらいたいのさ」


「……えぇ……」


 あーはいはい。

 それだけで、もう一瞬で理解しましたよ。すいませんねにぶくて。

 どうやら父親に似てしまったようですわ、不本意ながらっ。


「つまり、僕の土や木を操作する魔法で、高速建築をしろ……ってこと?」


「ふっふーんっ。その通りだっ!」


 ドやんなドやんな。

 どうせ……ミーティアの案なんだろ?


「別に、それくらいならいいですけど……建築けんちくの知識なんてないですからね?」


「ははは、安心しろ。そこまでの豪邸を建てろなんて言わないさ。それに当然、依頼料と勤務手当は出すよ……」


 お!金は入るのか、それはいいな。

 報酬があればそれなりにやる気も出るってものさ。


「分かりましたけど、いつからです?今日寝るところはあるんですか?」


「それはもう確保している」


 ほう。この村のボロ宿は既に潰れてるぞ?

 家が完成するまで、どこに寝泊まりするんだ?

 俺が【無限むげん】で家を建てるにしても、二~三日じゃ終われないよ?流石さすがにさ。


「どこです?」


「……ん?」


 え、なにその「何を言ってる?」みたいな首のかしげ方、すっげぇ嫌な予感なんだが。


「決まっているだろう?……ここだが・・・・?」


「……」


 ここ――ジルさんは、真下に指をさす。

 そうね……そうなるんだろうね。


 ここ――つまり俺の部屋だ……そう、俺がようやく手に入れた一人部屋。

 姉二人と妹の無防備な姿から逃げる事が出来た……自室だ。

 そこに、たった一年足らずで……もう侵入者が来てしまったんだ。

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