2-97【追いかけっこ3】



◇追いかけっこ3◇


 俺は自分の力……だけではなくて、ミーティアさんに支えられながらも立ち上がる。そして男を見る。

 やはり、あの王女のそばにいたダークエルフの騎士だった。


 くそ……めちゃくちゃイケメンなんだが。

 ジルさんと同じ銀髪は、肩まである無造作。

 外に跳ねてて、今時……この世界では今時は違うな……とにかく、めちゃくちゃ格好良かった――敵じゃなければな。


「起きたか……ジル、それならば治療はいらないだろう。さぁ少年、こちらへ来い」


 俺に手を差し出すイケメン。

 おいおい、お前さぁ。


「――では……綺麗にお断りさせていただきますっ!」


「……なんだと?」


 そんな言葉で、素直に行く訳ねぇだろっ!!

 だが、そんな言葉でイケメンダークエルフがあきらめる訳はなく。


「それならば……無理やりにでもっ」


「――ジェイルっ!!」


 なっ!ジルさん!?……と、飛びかかった!?

 おーい!いつもの冷静さは何処どこに行ったんだよ!!


「ジルさんっ!」

「ジルリーネ……!」


 咄嗟とっさだったからか、男も反応が遅れていた。

 取っ組み合いになりながらも、ジルさんは俺に。


「――走れ!ミオっ!!お嬢様を頼むっ!」


 だが、俺の体力では……それに、ミーティアさんを連れて?

 目的は俺なんだろ!?それなら俺が一人で……いや、そうなれば、俺を捕まえる為にミーティアさんを人質にされる可能性があるんだ。


 くそぅ……急展開で、後手後手なんだよぉぉぉぉ!!


「わ、分かりました!!ミーティアさんっ!」


「――で、でもジルリーネが……」


 いいから!ジルさんは大丈夫だって!

 転生者の俺やクラウ姉さんより強いんだからなっ!


「――行きましょうっ!早くっ!」


「で、でも……」


「ちっ!――待てっ……ジル!!お前っ!」


「黙れジェイルっ!陛下を裏切り……国を売った売国奴ばいこくどめっ!!」


「くっ……今それを持ちだすかっ!百年も前のことをっ!それに、父上に何ができたっ!例え俺が悪かろうとも――」


「――貴っ様ぁっ!!」


 俺たちが走って行ったあとの会話は、俺には分からない。

 だが、それはジルさんにとっての全てであり、エルフの王女であるジルさんと、その兄であるジェイルって男の関係は……きっと、俺には分からないものなのだろう。




 くそ……ここは何処どこだよっ!

 夢中で走って逃げて来て、俺とミーティアさんは、結構な広さの所に出た。

 周囲を見渡し、あの男が追ってきていない事を確認してから。


「はっ、はぁっ……はぁっ……」


「はぁ……はぁ……けほっ、けほっ……」


 ヤバいって……俺自身、まだそこまで体力ねぇのに。

 ミーティアさんも息切れしてるし、汗もひどい。

 緑色のワンピースが張り付くほどだ。


「だ、大丈夫……ですか?ミーティアさん」


「はぁはぁ……はぁ……だ、大丈夫……よ」


 強がってくれるだけありがたいな、流石さすがに年上のお姉さんだ。


「でも、ここは……?」


「――!……ここは【ディランデ公園】って言って……普段は子供たちで溢れているけれど……あ、そうか……皆、シャーロット殿下でんかを見に行って」


 そうか、でも……それって。

 誰も助けを呼べない……ってことだよ、な?


「――その通りだ。殿下でんかのお姿を見に行っている……今は誰もいない。つまり……助けも、目撃者もな!」


「――なっ!か、影からっ!?」


「――っ!?」


 マジかよこいつっ!!遊具の影から……っ!!

 影の中からジェイルが現れた……そしてその手には、ジルさんの……綺麗な髪がつかまれていたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る