2-41【で、負けたってわけ】



◇で、負けたってわけ◇


 なるほどねぇ……剣技でも、身体能力でも、魔法でも負けたのか。

 そりゃあ不機嫌になるわな。

 でもさ、あのエルフの女騎士は互角って言ってくれてたじゃないか。


 なのに……素直に喜べないんだろうなぁ、このひとは。


「悔しい……ホントに悔しい、頭がバグりそう!!」


 バグ……知らんふり知らんふり。


「へ、へぇ……」


 俺とクラウ姉さんは、まだ村長の家だ。

 もう他の人たちは外に出て、各々おのおのが行動を開始している。

 だってさ、クラウ姉さんこのひとが動こうとしないんだもんな。

 ほっとくわけにもいかないだろ、弟して。

 それに、ふてくされるクラウ姉さんをほっといたら、後が怖いしな。


「ほらクラウ姉さん、行くよ?」


「……いい。ここにいる」


 うわぁ……重症だよ。

 テーブルに突っ伏して、ぐだるクラウ姉さん。

 って、涙目じゃんか。

 そこまで悔しかったのかよ。


「……わ、分かった」


 仕方ないから、俺は先に戻ることにした。

 後で俺に当たらないでくれよ?話だけはしっかり聞いたんだからさ。





 外に出ると、ミーティアさんとエルフの女騎士さん……ジルリーネさんが二人で馬の所にいた。


「――あ、ミオくん!」


 先程までの静かな雰囲気ふんいきは無くなったな。

 国の事と家の事……さっきまではいろいろと考えていたんだろうけど。

 ひとまずは安心したのかな?


 となると、この明るさがこの子の本性か。

 ここに来るまでの暗い雰囲気ふんいきは、不安から来たものだったのか。


 しかし、ミーティアさんの行動と言うか考えと言うか。

 まるで国からの助けは来ない……と、確信して、だから自分で何とかしようとしていた……俺にはそんな感じに見えた。

 この村の良い所を探して……自分の糧にしようとしてたんじゃないか……と。

 そうなると……なるほど、したたかな女性だ。


「お話は、終わったの?」


 階段から下りて行く途中の俺を、上目遣いで見てくる。

 やっぱり……いや……もうよそう。

 これ以上は俺が言っても意味はないんだ。彼女は国に帰るべき。

 これは俺個人の意見であり、彼女の意見なんて聞きもしていないが、ただ観測的に見た結果、俺が勝手に思っているだけだ。


「はい。姉はまだねてますけど……」


 俺の言葉に、ミーティアさんの隣にいたジルリーネさんは。


「ん?まさか気にしているのか……?わたしに勝てなかった事を」


「え、ええ……そんな所です。騎士様は気にしないでください……丁度ちょうど良かったんですよ、鼻が折れて」


「はははっ……君は面白い事を言うな。それにしても、彼女は十五歳だったのか……まさかお嬢様と同じ年だとはな。分からないものだ……うんうん」


 一人で納得するジルリーネさん。

 うん。俺もそう思うよ。


「いやしかし、あの剣技に身のこなし、そして魔法だ……このような、いや失礼。訓練の相手がいない場所で、よくもまぁあれほどの実力をつけたものだよ……君の姉君は」


 ほら見ろ。やっぱりめてくれてんじゃねぇか、何が不満なんだよ、クラウ姉さんは。あと……田舎って言おうとしたよね?分かるよ?


「でも、ジルリーネは騎士団の副団長じゃない……そんなジルリーネと引き分けたんなら……ミオのお姉さんって、凄いんじゃないの?」


 ふ、副団長!?この人が?このエルフのお姉さんが!?

 そんな人と戦って、ここまでめられてんのに……なんでねてんの!?

 俺は、クラウ姉さんの考えがまったく分からなかったんだ……多分、今後も分からんよな、俺には。

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