2-28【右手に見えますのは】



◇右手に見えますのは◇


 俺はミーティアさんを連れて、村の案内を開始した。

 え?ジュンさんとリディオルフ?来てねぇよ。

 こんなド田舎興味きょうみないんだろうな。それが普通だって。


「それで、あそこが……」


「――うんっ!」


 青い瞳がキラキラしてんねぇ。そんなに見たかったのか?こんな田舎。

 まぁでも、ここに置いてくれって言うくらいだしなぁ。


「……あそこは最近できた雑貨屋さんで、商人のディン・トルタンさんが経営しています」


「うんうん……雑貨屋があるなら、色々困らないわねっ」


 え、もう住む事考えてない?積極的過ぎではないか?


「は、はい……そしてあっちが――」


 そうして俺は、ミーティアさんに村の数ヶ所を案内した。

 ハッキリ言ってしまえば、案内する場所なんてたかが知れてる。

 先程の雑貨屋に、学校、共有洗濯場、だれだれの畑、営業をしていない宿屋。川の近くにあるトイレ。マジで紹介するところないよこの村。


「あー、楽しかった。じゃあ、次は……!」


 ほ、本当に?そんな笑顔でよく言えるね。何が楽しかったのか、俺には分からん。

 でもまぁ……その笑顔を見れて俺は嬉しいよ。


 ミーティアさんは、特に畑に興味きょうみいだいていた様子だった。

 だから、これからうちの畑を見に行く。

 確かに村一番の畑だけど、楽しいものではないような気もするんだよな、個人的には。


「はい。では、うちの畑を案内しますね……こちらですよ。あ、少し遠いので、食事を持ってから行きましょうか」


「――はいっ!」


 うん……めっちゃいい笑顔だ。

 心底楽しそうで何よりだよ。


 俺とミーティアさんは一旦集会所に戻り、小屋に置いてあったバスケットを持って再度出発。

 ウキウキのミーティアさんを横目に、俺は窓の外から集会所の中を目撃した。


 集会所の中では、リディオルフがレイン姉さんに熱心に話しかけていた。

 それこそウッザいくらいにさ。

 でも、俺は一瞬ニヤリと笑っただけでその場を後にする。


 だってさぁ……レイン姉さんのあしらいっぷりよ。

 当たり前だが、レイン姉さんがそこらの男に簡単になびく訳ないだろ?


「ミ、ミオくん……いいの?」


「ああ……見ました?大丈夫ですよ、レイン姉さんは」


 ミーティアさんも見てしまったか。

 申し訳なさそうに、まゆを八の字にしている。


「……で、でも……なんだか、あの人」


 大丈夫だって、レイン姉さんだからな。


「平気ですよ。それより畑を見るんですよね……ほら、行きましょう?」


 俺は、笑顔でミーティアさんに手を差し出す。

 そんなつもりはなかったのだが……なんだろうな、勝手に。


「う、うん……」


 そう一言、ミーティアさんは短く返事をして。

 彼女は、つまむように俺の手を取ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る