2-29【左手に見えますのは】



◇左手に見えますのは◇


 これ、いつ離せばいいんだろうか……まったく分からない。

 なにせ、人生で初めて異性と手を繋いだんだからな。

 勿論もちろん、学校行事などで繋ぐチャンスはあった。


 だが俺は、みずかこばんでいたんだ。

 手汗すっごいんだよ……俺!!

 身体の水分全部手のひらから出てんじゃねぇのってくらい、びっしょびしょなんだよ!

 机に手のひらを数秒付けただけで、汗でぴっちゃぴちゃ言うんだぞ!!

 ゲームやってる時なんか、俺、手袋付けてんだからな!?

 PCのマウスもびしょびしょだよ!!普段汗なんか掻かねぇのにさぁ!!


 はっ!?――す、すまん……前世の俺の体質、今は関係なかったわ。

 取り乱したよ……申し訳ない。


 だが……だがだぞ。俺の右手に繋がれてる手は本物だ。

 本物の女の子の手だ。柔らかくて、少し冷たい。緊張で力が入っているのか、ギュッ――と俺の手を離そうとしない。

 初めはついばむような、そんな様子を伺う手付きだったのだが……今はもうガッツリ繋いでいる。

 多分、ミーティアさんの中でも葛藤かっとうがあったに違いない。


 勿論もちろん……俺にも葛藤かっとうはあった。

 そんな俺の葛藤かっとうなんて知らないだろうミーティアさんの手を引いて、俺はスクルーズ家の野菜畑に案内をしている。

 もうすぐ着くところだ。


 スクルーズ家の畑は三つある。

 一つ目は、家のすぐ隣だ。個人的に家族で食べる為の、自給野菜だな。

 二つ目は、今向かっている大きな畑だ。俺が産まれた時に広げた、少し先にあるロクッサ家との共同経営の大きな畑――【スクルーズロクッサ農園】だ。

 三つ目は、最近俺が管理している場所。俺個人が任されている畑で……まぁこれは趣味しゅみに近いな。学校の裏山にある小さなものだ。


「見えました。あそこが、【スクルーズロクッサ農園】……この村の食糧事情をになう……大農園ですよ」


 数年前までは【スクルーズロクッサ畑】だったが、今では立派な農園と言えるだろう。

 広さは勿論もちろん、従業員だって増えたんだ。

 ロクッサ家の従業員と、スクルーズ家の従業員、合わせて十五人ほどか?

 その中には、レイン姉さんの同級生であるアドルさんも、しっかりと働いてくれていたよ。

 多分、現状の一番の功労者だ。


 だが、最近やけにレイン姉さんと仲がいいように見えて……不安だ。

 まぁ、そのおかげもあって……さっきのようなナンパを見ても、レイン姉さんが簡単に落ちはしないと思えるんだがな。


「わぁ~……ひ、広いね」


「そうですね、広さだけは」


 ミーティアさんの興味きょうみ何処どこにあるのだろうかと、俺は気になる。

 凄く見てるな……観察かんさつに近いぞ。


「……好きなんですか?」


「――え!!えぇ!?そ、そんな……わ、私は」


「いや、その、農業にご興味きょうみがあるのかなって思って」


「え……あ、ああ……そっち?」


 安心したように、胸をなでおろすミーティアさん。

 いったい、そっちってどっちの事ですか?

 俺には、まるで分からない事だった。

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