2-12【裏側では】



◇裏側では◇


 一言いいだろうか……うん、黙って聞いてくれないか。

 俺さ、主役だよな?


 すっげぇ疑問なんだけどさ、クラウ姉さん……戦闘面で全部持って行ってないか?

 いや、いいんだ……いいんだよ?

 別に思ってないよ?うらやんでないよ?

 俺も戦いたいとかさ、俺TUEEEしたいとかさ、考えてないよ?


 たださ、いいのかなコレで……って思うじゃん?

 今回の俺、焚火たきびの炎を消しただけだぜ?

 しかも正確には、消したんじゃなくて……【無限むげん】の力で、焚火たきびに使われてたまきの数値をいじくって、消える様に見せただけだけどな。


 俺以外から見れば消した様にしか見えないだろうし、消したと言えば消したんじゃないか?


「――お、始まったか」


 ――とか言っている内に、どうやらクラウ姉さんが戦闘を始めたみたいだな。

 音が聞こえる……また激しく動くねぇ。


 こっちに残ってるのは……兵士二人か。奴隷どれいたちを逃さない様に見張りにしたんだな。


「さてと……どうすっかな」


 いろいろ試してみてもいいんだが、俺の能力的に……こうだろうな。

 俺は【無限むげん】を発動させ、二人の兵士たちと奴隷どれいの間の土を、ゆっくりと隆起りゅうきさせる。

 さいわい兵士たちの視線は向いていない。

 チャンスと踏んで、俺は一気に数値を上昇させて、土を壁のように高くさせた。


「次っ――!」


 次は兵士たちの足元だ。壁に気付かれれば、奴隷どれいたちを盾にされちまうだろう。出来ればそれは避けたい所だ。

 だから、兵士たちの足元の土の軟度なんどを――沼のように柔らかくしてやる!そうなれば当然……


「――お、おわっ……な、なんだ!!足が……沈んでくっ!」

「なんだ、ど、泥かっ!どうして急に……くそ、抜けないっ!」


 そうだろうそうだろう。

 俺も経験あるよ。田植えってさ、ハマると抜け出せない時あるよな。

 それこそ底抜けのようにさ。


「――な、なに……?って、えぇ!?か、壁!?」

「なんだよ、これ」

「いつの間に……何が起きたの?」


 奴隷どれいたちも、自分たちの背後に現れた土の壁に気付き、おどろいている。

 ふふふっ……そうだろうそうだろう、おどろいただろう。


「よし……このまま動くなよ、黙って沈んでおけ」


 さてと、兵士たちも動けなくしたし、奴隷どれいたちの視線も隠した。

 お顔を拝見はいけんしに行こうかね。


 だけど、この時は思わなかったんだ。

 この後におとずれる出会いが……俺の異世界転生での、初めてのラブコメ展開だって事に。

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