1-79【無限大の選択】



無限大むげんだいの選択◇


 俺の脳裏に出現したUI――このユーザーインターフェースには、様々な項目の数値がしるされていた。

 何十列にも並んだメモリのあたいは、全てが1になっている。

 そのメモリは、この場に存在する物体オブジェクトの数だ。

 1の時点で、そこに存在する事が出来ているのだ。


 そして、そのメモリはスライドさせる事が出来る。

 そうだ――俺の能力【無限むげん】は、全ての物体オブジェクト資源リソースを変動させることができるんだ。


「な、なんだその意味の分からない言葉はっ!!」


 【objectオブジェクトsliderスライダーresourceリソースインフィニティ】。


 略して――【無限むげん】。女神よ、最後だけじゃねぇか。


 簡単に言えば、物体オブジェクトに設定された資源リソースの数値を、俺の自由に書き換える事が出来るんだよ。

 その資源数値は無数にあり、強度や質量、威力や魔力など多岐たきに渡る。

 組み合わせの選択は……まさしく無限だ。


 つまり俺は、転生時に勝手な解釈かいしゃくをして……魔力が無限とか、ステータス関連の数値に関係していると思い込んでいたんだ。

 蓋を開けてみれば、それ以上に恐ろしいチート能力。

 複数の物体を変動させて、地形や形状そのものを変える事が出来る……やばいよな。


 しかも地面にいたっては、四角いブロックがいくつも並んだようになっていて、この納屋なやの範囲だけでも、数えきれない程の数があった。


 そんなアホでも分かるチート能力、勿論もちろん消費はえぐいらしい。

 しかも、俺はまだ身体が未成熟の少年だから、今は一回か二回使えるかどうか……と、アイズはありがたいお言葉をくれたよ。


「き、聞いてんのかっ!クソガキっ!!今なにを言った!?答えやがれっ!!」


 盗賊親分は【無限むげん】の正式名称の事を言ってるんだろうけど、教えてやる義理なんかある訳はない。

 だから言ってやる。


「――分からねぇなら、そこで座ってろ!!」


 俺は、UIのメモリを脳内でスライドさせる。

 選択したのは……盗賊親分の足元、地面の一ブロックだ。


「な、なんだと……このガ――キ……な、んだぁぁぁぁぁぁぁぁっじ、地面がぁぁぁ!!」


 盗賊親分の足元……その地面の高低数値を、下にマイナス180、横幅の数値を90スライドさせた。

 【無限むげん】の発動範囲はこの納屋なやの内部。

 指定した範囲内の地面を、俺は自由に弄繰いじくり回せるって事だ。


 そういう操作をすることで、一瞬で落下していく盗賊親分。

 まるで落とし穴にはまったかのような動きだった。


「うおっ……!!くそ、落とし穴だとっ!いつの間にっ!」


「……ご丁寧ていねいに実況あんがとよ」


 盗賊親分は、丁度ちょうど頭だけが残った形だ。

 しかし、大の大人が本気になれば、自分の身長と同じサイズの落とし穴など登ってこれるだろう。


 だから。


「――土葬どそうしてやんよっ……おっさん!!」


「なんだとっ!!ふざけ――な、なんだっ!!土が……横から!!が、がぁぁぁぁぁ!!はさま、はさまれる!!」


 俺は横の数値だけを元に戻した。

 そうすることで、盗賊親分を囲むように、侵食しんしょくしていくように土がうごめき始め、盗賊親分を凝固ぎょうこさせていく。

 そうすることで、首だけ残された埋葬まいそうの完了だ。


「――へっ……ざまぁみろ」


「くそっ……出せっ!!このぉぉ!!うおぉぉぉぉぉ!!」


 無駄だって。ついでに、土の硬度こうども変えといたからな。

 俺が数値を戻さない限り、半径50mくらいを掘り返さないと出てこれねぇよ。


「はっ……殴られたお返しだよ、盗賊のおっさん。せいぜいそこで反省してな!!」


 俺は、思い切り右足を振り上げる。


「――おらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 全力の力を込めた蹴りを、おっさんの顎先あごさきに見舞ってやるよ。

 いくら十歳の子供とは言え、脳震盪のうしんとうを起こしてやれば気絶くらいするだろう。


「まっ――」


 待つわけねぇだろっ!くらえボケェェェェ!!


「てっ――ぎゃふんっっっ!!」


 ガクン――と盗賊親分の顔が沈んだ……よしよし、完全にノックアウトだな。

 ちょ、ちょっとやりすぎたか?

 いやいや……腹を殴られたし、顔を斬られたんだし、これくらいいいよな。


 よし……!後は、この状況を怪しまれないように、どう説明するかだな……外にいる――クラウ姉さんに。

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