1-77【無限1】



無限むげん1◇


 女神が言う……俺にはまだチャンスがあると。

 死のふちに立たされて、それでも何かをつかめる好機を、この【女神アイズレーン】はくれると言うんだ。


『――正直に言うわ。私は、あなたにとんでもない事をした!それはごめんなさい。悪いとは思ってないけれど!』


 おいちょっと待て、サラッとなんて言った?

 なんで謝罪から入るんだよ!しかも堂々としてんな!せめて悪びれろ!


『い、いいでしょ!間違えたものはっ!あと機密事項で言えないから!追及は禁止!』


 余計よけいに気になるっつーの!!


『――あー!あー!聞こえないー!聞ーこーえーなーいー!!』


 こ、子供かよ、このポンコツ女神!!


『――だぁれがポンコツよっ!この童貞三十路男っ!!』


 やっぱ聞こえてんじゃねぇーか!!ふざけんな!

 しかも前世の情報を出すんじゃねぇ!もう違うんだよっ!!


『ふざけてんのはあんたでしょ!黙って聞けよ!!』


 あ……す、すみません……ブチギレられたんですが。

 つーか、初対面の時の清楚せいそな女神はどこに行った?


『――いんだろーが目の前によぉぉぉ!』


 どこだよ!どこだよぉぉぉぉ!!

 あと、俺が見えるのは球体だっつってんだろ!十年前もしたなこのやり取り!!


『私にとっては十ヶ月前だっての!!』


 は?なんだよそれ、ズルくないか!?

 ――って……そんなこと言ってる場合なのか?


『……そ、それもそうね。私としたことが、人間風情ふぜいにムキになって、あー恥ずかしい』


 分かったよ……もう何も言わねぇよ。

 それでいいだろ?


『よろしい。あたしがあなたにさずけた……えっと……』


 ん?なんだ……何を戸惑ってる?

 何か、言っていい事と悪いことを探り探りなような、そんな感じに取れるけど。


『――あ!そうそう、【無限むげん】ね……これだこれ』


 ――【無限むげん】、俺がさずかった、転生特典ギフトだ。

 しかしその使い方も、効果も一切分からなかったんだ。


 と、言うよりもだな……俺は一人になれる時間が無さすぎて、試す事すら出来なかったんだ。

 そもそも、俺はまだ子供だ。未熟も未熟……だから、まだ使えないって考えてもいた。


 だが、クラウ姉さんは使えていた――光の剣【クラウソラス】を。


転生の特典ギフトには、それぞれことわりがあるわ。それを理解しないと……発動はしないの……まぁ例外もあるけれど、【無限むげん】はそれね』


 ことわり?つまり理解が及んでいないと使えないって?

 だったら初めから教えて……って断ったの俺じゃん!!


『――だ、だって!転生者の能力付与はランダムなのよ!あんたが特別だっての忘れたのぉぉ!?』


 あぁそーかよ、俺が悪いのかよ!じゃあいいよそれで!

 だから、教えてくれ!!その【無限むげん】のことわりを!!


『ご、ごほん!……いいわ。覚えなさい、あなたが獲得した、その能力の力は……――』


 三十歳の誕生日……訳も分からないまま刺されて死んで、しかも手違いだ。

 そんな俺が転生して、はや十年……俺は、ようやく一歩を踏み出す。

 転生者……武邑たけむらみおこと、ミオ・スクルーズの転生譚が、始まるんだ。

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