1-26【美味しそうなんだけどさ】



◇美味しそうなんだけどさ◇


 そうして、まるで野獣のような目のクラウお姉ちゃんとの時間も過ぎ、夕食だ。


「おおっ!昨日のボア肉か……こうして肉を食えるなら、野菜を育てた甲斐かいもあるなぁ!」


 帰って来たルドルフが、開口一番にそう言う。やっぱ嬉しいんだな、肉を食えるって。

 初登校から帰って来ていたレインお姉ちゃんも、お腹を押さえて目をキラキラさせている。学校って体力使うもんな……お腹、減るよな。

 でもってクラウお姉ちゃんは……全っ然興味きょうみなさそうにしてる。


 しかし、その内心が分かる俺にとっては、心穏やかではないのだ。

 知っているんだからな……寡黙かもくに見えて、中身はおませで肉食だと……だが、それはいけないんだ。


 あるだろう?どこの世界でもそれはさ。

 禁忌きんきだ。例えば、もし……ルドルフとレギンの夫婦が兄妹だったら、そういう世界なんだな……と、納得――出来んのよなぁ……

 どこの世界でも、駄目だめなものは駄目だめと知れ渡っている筈だ。

 まさか、そこまで進歩しんぽしていない世界なのか?


 あぁ……早く大きくなりたいよ。

 だってさ、俺……まだ異世界だって実感してないんだぜ?

 笑えるよな。死んで転生して、赤ちゃんからやり直したのに……物語は始まったって言えるのか?

 違うよなぁ。まだなんにも異世界の醍醐味だいごみなんて感じてないのよ。


 だから覚えていて欲しい。今はまだ幼児で、一人でいる事はほとんどないけど……もし、俺が一人の時間を持つ事が出来たら。

 確かめような、あの女神さまからもらった能力・・をさ。

 その時が来るまで、先ずは我慢がまんだ……成長待機だ。


 俺が近い未来の事を夢想むそうしていると、台所からママンがやって来た。

 ドデカい皿に、こんがり焼けたボア肉を乗っけて。


「……おお~」

「すご~い!」

「……うん」


「……」


 オヤジ殿、レインお姉ちゃん、クラウお姉ちゃんのリアクションだ。

 最後のは俺。うん。クラウお姉ちゃんの様子を見てたよ。

 オヤジ殿もレインお姉ちゃんも、肉自体が久しぶりなのか、随分ずいぶんたかぶっているように見えた。

 クラウお姉ちゃんは、さっきも言ったけど……俺に食わせるつもりなのだろう。


 マジで実行する気なの?――ってママン!?

 い、今気付いたけど、クラウお姉ちゃんと同じ目してやがる!獲物えものを狙うメスの目だ!!


「……ぼ、ぼく、ぽんぽんいたい」


 すまん。食が怖い。

 先手を打って、食べない方向に持っていこうとする俺に、隣に座っていたレインお姉ちゃんが。


「そうなの?でもご飯食べないとね……大きくなれないんだよ?」


 ああ……優しく言ってくれるレインお姉ちゃん。

 でもな、今はやめたい。あなたの妹さんが怖いんだよ。

 ――ほら!!スッゲー目でこっち見てる!!


「……ミオ」


 はい!!何でしょうか!!


「……な、なぁに?」


「――食べなきゃダメ……」


 怖いって……ママン、助けて。息子が腹痛いって泣きそうだぞ――って駄目だめだ……あっちはあっちで、ルドルフにスタミナ付けさす気満々だよ……

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