1-27【美味いもんは美味いわ】



◇美味いもんは美味いわ◇


 ママンが全員に取り分けてくれて、夕食の時間が始まった。

 俺は両隣から掛けられる、レインお姉ちゃんからの心配とクラウお姉ちゃんからの圧の板挟いたばさみで、胃がキリキリしてきた。

 うん。マジでぽんぽん痛い。


 でも、目の前に取り分けられたボアの肉は、こうばしい匂いとジビエ特有の獣臭さが相まって、食欲をそそって来やがる。

 日本で食えば、多分臭みのない新鮮しんせんなものが食えるんだろうけど……だ、大丈夫なのか?


「――はいっ!じゃあみんなで一緒に」


 ママンが手をパンパンッ――と叩いて、スクルーズ家のいただきますだ。


「「「「全ての恵みに感謝を。全ての命にいつくしみを……いただきます」」」」


「い、た、だ、きます!」


 両親と姉の四人はいつものように天に感謝を告げる。

 俺はまだ言えない(言えるけど)から、子供らしく真似をして食事を始めるのだった。





「……」


 どうしよう。手に持ってる木のフォークがさ……全然動かないよ?

 皆は美味そうに食ってるよ、そりゃもうガツガツ食ってる。

 普段おっとりしているレインお姉ちゃんですら、夢中だもんな。

 やっぱスゲーな、肉って。


「……ミオ。はい、あ~ん」


 そ、そう来たか。左隣のクラウお姉ちゃんは、俺の食が進んでいない事を利用して、自分の分まで食わせようとしてきた。

 ママン、いやこの際オヤジ殿でもいいや……助け――あ、いや……うん。

 なんでもない。


 俺のひとみうつるオヤジ殿は、最早もはや頼りにならない獣だった。あきらめるしかねぇな……これ。


「……あ、あ~ん」


 パクっと――っ!!……うん。美味いもんは美味い!!

 いや、めちゃくちゃ美味い!!この世界で初めて食べた肉。前世でもこんな感じだったか!?人生で初めて肉を食べた子供の感覚って、こんな感覚なのか!?

 やべぇ泣きそう。確かに獣臭さはある。でも、そんな事度外視どがいしにしても、美味いんだ!


「おいし?」


「――うん!おいち!!」


 満面の笑みだった。

 ちなみにクラウお姉ちゃんも、目的がかなって笑顔だったよ。

 そうさ、双方が得をしたんだよ……結果的にさ。そう思うしかないだろ?


 時間はあっと言う間に過ぎた。

 俺はクラウお姉ちゃんに甘えに甘えて、自分の分まで食べさせてもらった。

 だって上手くフォークが使えないんだもん。


 え?“もん”じゃないって……?それはすまん。つい心まで幼児化してしまうんだ。

 心が身体に引っ張られんの。クラウお姉ちゃんにバブみ感じちゃってんの!!

 いいじゃん!!異世界の特権とっけんだろ!?許してくれよ!!


 そんな俺の意味不明な弁明べんめいと共に、楽しい食事は過ぎて行ったんだ……そして、地獄がおとずれる。

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