1-5【頼むよオヤジ、気付いてくれ!】



◇頼むよオヤジ、気付いてくれ!◇


 夜泣きも終わり、家に戻った俺と……母レギンは。


「……怖かったね、ミオ」


 本当だな。ああいうやからほろびればいい。

 つーかオヤジよ……お前がしっかりしろ。


 レギンは俺を寝かせると、自身もルドルフの隣に横になり、その背に顔をうずめていた。

 気付いてやれよ、馬鹿オヤジ。


 それにしても、俺の異世界転生……ハードコアだな、環境が。

 スタート地点もこんなド田舎で、やれることもない。

 このまま十数年を過ごして、本当に勇者に成れるのだろうか……不安しかない。


 ん?いや……まてよ?

 勇者に成る?そんな事、一言でも言ったっけ?

 あの女神も、そんな事は言ってないよな。

 そうか、そりゃそうか……俺が勇者だなんて、保証はされてねぇもんな。


 このまま行けば、黙っていても農家の息子……か。

 でもって、美人の母親は村長の息子に狙われていて……旦那はそれに気付いてもいないのか……マジかよ。

 この調子だと、二人の姉も将来が不安だな。

 なにせ母親似の美人さんだ。あの村長の息子が手を出すという事も考えられる。


 俺は腕を組んで、ばぶ~とうなる。

 ん?腕を組んで……るな、組んでるわ。見事に。

 これ、この調子なら意外と早く動けるんじゃね?

 そう期待して、何とか早めに赤さん時代を終えたい俺だった。





 数ヶ月。何事もなく数ヶ月……と言いたかったが、そうでもない。

 あの男、オイジー・ドントーと言うらしいその村長の息子は、度々スクルーズ家に顔を出してくるようになった。

 しかも――好青年の顔をよそおってだ。

 父ルドルフの畑を手伝ったり、二人の姉の子守りをしたりと、実に気持ちのいい皮の被りっぷりだった。


 不安そうにするのはレギンだけだが、そんなことかえりみず着実に、一歩一歩スクルーズ家に浸透しんとうしようとしてやがる。

 頼むからママンとオイジーを二人きりにはするなよオヤジ!!


 そんな俺の心を読んだのかそうでないのか、ある日。


「すまんレギン。実は、少し遠くの敷地しきちに、畑を持てることになったんだ……そこを借りる・・・ことにした」


「と、遠く?それってどれくらいなの?」


「そうだなぁ、歩いて一、二時間……ってとこかな」


「そ、そんなに!?」


 そんなに!?おかしくないか?一度散歩で連れられて見たけど、スクルーズ家が持ってる敷地しきちだけでも結構な量の畑があったぞ?

 それなのに、今ここで広げる必要ないだろ!


「――ああ。実はこれはオイジー君の発案でね」


 アイツかぁぁぁぁ!!仕掛けてきやがったぞあのイケメン!!

 ルドルフを遠くに追いやって、レギンを手籠てごめにする気だな……!?(妄想)

 ほら見ろ、ママンも顔面蒼白だぞ!


「大丈夫だよ、きっと上手くいくさ!」


 そうじゃねぇんだよオヤジィ!!

 頼む!頼みます!!自分の妻の心情に気付いてやってくれよ!


「……ええ、そうね。心配、ないわよね」


「ああ!きっと上手くいく。そうして野菜を沢山育てて、もっといい生活しよう!!」


 駄目だ。うん。こいつは駄目だ。

 知らんぞ、妻を若い男に寝取られても……もう後がないんだからなっ!!

 こうなったら……俺がママンを、守ってやる!!

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