1-3【初めてのお散歩】



◇初めてのお散歩さんぽ


 数日後。産後の運動もねて、母親のレギンは俺を連れて家の外に出た。

 俺にとっては、初めての異世界の外だ。


 一体どんな世界観なのか、どんな街並みなのか。

 空が赤かったり、月が二つあったりさ。色々と想像したよ。

 散々プレイしたネトゲの世界観とごっちゃになって、F〇とかドラ〇エの世界を想像しちゃうよな、定番だけどさ。


 しかも女神は言っただろ?そういう世界・・・・・・だって。

 剣と魔法の世界。つまりロールプレイングし放題ってわけだ!

 これから成長して、旅に出て、勇者と言われるようになるんだろう。

 なんたって……異世界転生だからなっ!!


 しかし、そんな甘い夢を見た俺の考えを……一気にぶち壊すのが。

 そう――異世界なんだよな。


「ほらミオ、お外でちゅよ~」


「あう、あう~」


 なんだこれ……なんにも無いぞ?スクルーズのボロ家があって、他の建物が……二、三、四。

 十数件のボロ家と、村長宅とおぼしき多少大きな家があるが、それだけだ。たったのそれだけしかない。

 村を守る兵士もいなければ、害獣がいじゅうから農作物を守るさくすらない。


 母レギンは俺を風から守るようにしてくれるが、俺は周りをもっと見たかった。

 もしかしたら、他に何かあるかもしれないだろ?

 王様から勅命ちょくめいを受けた騎士がやって来るとか、お母さんが息子を起こして「今日はお城に行くのでしょ?」って言ってくれるとかさ!!


 美味しい名産の果物くだものめぐって争いがおきたり、ソルジャーがデデデデデデ、デデデデデデ、デデデデーンって列車から飛び降りたりさ!!

 なんか……あるだろ、普通。


 異世界転生だぞ?死んだんだぞ、俺は。

 ならせめて……楽しい異世界の転生ライフをさせてくれよっ、頼むから!!

 何もないじゃないか……ド田舎もいい所だぞ、日本の田舎の方がまだ物があるって!


「さぁ、沢山歩いたし、戻りましょうね」


 本当にただ歩いただけだ。

 何も無い、只々広い村の中を、乳児連れのお母さんが散歩しただけ。

 それだけだ。


 ぱたんと閉められた家の扉は草臥くたびれていて、反動でメキッと音を鳴らす。

 しかし家の中では二人の女児が、心底楽しそうに遊んでいて……何故なぜだか、無性むしょうにやるせなくなった。

 なんだろうな、気持ちがえる?そんな感じだ。


 せっかくの異世界転生。【無限むげん】なんて言う素敵能力も貰ったのに、スタート地点で心が折れそうだ。いや、もう折れてるかもしんねぇ。


 だってさ、これから十数年この何もない村で過ごすんだろ?

 こんな過疎化かそかした村で、満足に食事も出来ないような場所でさ。

 いったいこれから、俺はどうしたら良いんだろうな、マジで……

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