プロローグ1-2【あなたは死にました、手違いで】



◇あなたは死にました、手違いで◇


 あれ……?俺、死んだのか?

 確か……肩を叩かれて、振り返ったら地雷メイクの女がいて……


 あぁそうだ。俺、その女に刺されたんだわ。

 一瞬だったな。痛みも何も無くて、感じる前に事切れた感じだったな。

 胸、つまり心臓を刺されたって事は……肋骨ろっこつを貫通だろ?

 殺意ありすぎだろあの女……


「ここは……何だ?やけに不思議ふしぎな場所だな」


 これはあれだ。つまりは天国ってやつかもしれない。

 真っ白くてだだっ広い空間。何も無くて、ただただ空白。

 白い紙で箱を作ったような、そんな感じ。


「ここが天国なら、一度はおいでじゃねーよ……酒も女もねーじゃねーか」


 それにしても……何で俺は刺されたんだ?

 思い出そうとしても、まったく面識めんしきのない女だった……いや、知らないうちに出会ってたとか?

 いやいや、そんな馬鹿な話があるかよ。

 だとしたら何で刺されるんだって話だもんな。


 俺がまったく面白みのない事を考えていると、目の前に光る球体が現れた。


「――うおっ!な、なんだ急に……まさか、天国じゃなくて地獄じごくに行くのか?」


 うん。それなら自覚ありだ。

 三十年生きて来て、親孝行もしていなければ社会貢献こうけんのなにもやって来ていないんだ。あぁ悪い、するつもりも無かった。だな。

 だから、もしどちらかに行くとするなら……地獄じごくだろうって、ガキの頃から思ってた。


「う~ん、それにしても……何で俺は刺されたんだ?自慢じまんじゃないが、女の子の知り合いなんていないぞ?」


 当然、俺を刺したあの女も知らないよ。

 ん?いや……ちょっと待てよ?冷静に思い返してみよう。


 あの時、倒れた俺の前にいた男……ウゼぇカップルの男の方な。

 あの男が、倒れた俺を無視してなんか言ってなかったか?


「そうだ。確かになんか言ってたぞ」


 俺は腕を組んで、う~んと考える。

 すると、俺の前に現れた光る球体が突如とつじょ


『――そうです。あなたは死にました、手違いで』


「なるほどね、手違いか……うんうん」


 そうか。俺はきっと、あの男と間違えられたんだ。

 どこをどう間違えればあんなチャラい男と間違うのだろうか。


 心外だぜまったく。こんなさわやかな男を捕まえて、チャラ男と間違うなんて。

 あーでも、あの女……俺を見てるようで、遠くを見てた気もするな。

 それだけ余裕が無かったのか、それともそこまでの殺意があったのか。


『――さ、さわやか、それは自称じしょうでしょう?』


「いやまぁ、そうなんだけど――って!なんだ!?何処どこからだっ!?」


『――目の前です。あなたの目の前』


 おどろいた。俺の目の前の光る球体が……綺麗な声を出してやがる。

 声を出す度に点滅てんめつして、鳥のような声で俺に話しかけて来る。


 いや待て、俺じゃないかも知れない……だってこんな綺麗な声、声優でしか聞いたこと無いし。


『――あなた以外ここにはいないでしょう?』


 む、それもそうだ。俺は球体をジッ――と見て、言葉を選んでしぼり出そうとしたのだが。


「え、えっと……そ、その……どちら様でしょうか?」


 おっといけない。持病じびょうの人見知りがでてしまった。

 視線を彷徨さまよわせて、俺は目をらす。

 そもそも球体に目なんてないが、どことなく見られてる気がすんじゃん!


『私は、女神……【女神アイズレーン】です』


「――女神さまなら姿見せろや」


 あ、やべ……つい思ったことを。


『残念ですがそれは出来ません。この世界はイレギュラーな状況に対処する為の場所……つまりあなたの死は――イレギュラー……手違いなのですから』


 手違いで殺されたのか?俺は。

 三十歳の誕生日に?自分で自分に誕プレを買いに行くなんて言うこっずかしい事をしてる最中さいちゅうに?


『……そう言ってしまえばそうとしか言えませんが。とにかく私の管轄かんかつの世界で、あなたは殺害されたのです。これは神の決まりで、死者は次の世界に転生させなければなりません……』


「……転生?」


 それはつまり、生まれ変われるって事だろ?マジ?


『――マジです。しかし、行く先は残念ですが選べません』


「は……?なんで?転生出来るんなら、ゲームの世界とかにしてくれよ。デスゲームとかさ、死んだら終わり的な?」


 あこがれだよな。ゲームの世界。


『――残念ながら、その世界はサーバーが一杯なのです』


 おい、しれっと異世界をサーバーって言ったなこの女神。

 なに?そんなに転生する人間いんの?


『言ったでしょう、イレギュラーだと……本来は、突発的な事で寿命じゅみょうが尽きた人間や、病気で亡くなった……惜しくも人生を終えた人間を転生させ、私たち女神が能力や武器を与えるのです』


 おお!異世界転生の贈り物ギフトって奴だな。


『今言った通り、あなたはイレギュラー……本来死ぬはずのない人間です。寿命もあったし、病気にかかる未来も無かった。なぁんでここに居るんでしょうねぇ~』


「……おい、急にやる気ねーな」


 面倒臭めんどうくさそうにしやがって。

 つまりなんだ……俺は本来、あそこで刺されて死ぬはずじゃなかったって事か。

 それがなんかの手違いで、偶然ぐうぜん死んじまったってか?


『ま、そういう事ね~。本来転生するはずのおじいちゃんが、奇跡の復活を果たしちゃってさ~』


「死んでないならそれでいいじゃねーか!死ぬのを待ってるみたいに言うなよ!!おじいちゃんが可哀かわいそうでしょーが!!」


 つーか、この……【女神アイズレーン】だっけ?

 何か本当に女神かあやしい限りなんだが。

 言動も若干……変わって来てねぇか?

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