澪から始まる異世界転生譚・少年編~手違いで死んだ俺、女神に最強の能力と武器を貰うも、スタート地点がド田舎だったのでスローライフを目指す事にした~

you-key

第1章【幼年期の俺。零歳~十歳】

プロローグ1-1【30歳の誕生日、俺は死んだ】



◇30歳の誕生日、俺は死んだ◇


 「おめでとう」……家族から頂いた、何とも言えない簡素かんそなありがたいお言葉ラインと共に、俺はめでたく三十歳になった。

 ああ……そうだよ、見事に魔法使いに昇格しょうかくさ。


 趣味しゅみと言えばネトゲと映画鑑賞。

 魔法使いって言えばわかるだろうが、当然彼女なんていた事もない。

 言われてみれば、昔からそういう努力もしてこなかったしな。


 学生の時から都内に一人暮らしで、仕事はもっぱら自宅でPC作業。家からなんてほとんど出ない。出たくもない。

 食事も宅配サービスで済ますのがほとんどで、たまに自炊するのもお湯を入れるだけの簡単なお仕事だ。

 もしかしなくても、隣人からは引きこもりと思われているだろう。

 だからと言って、社会不適合者ふてきごうしゃと思われるのはしゃくだ。

 何も、自分から望んでこう言う生活をしているのではないのだからな。


 たまたまPC周りの作業が得意で、たまたま家でも仕事が出来る状態だからそうしているだけで、たまたま環境かんきょうがそう言う事にとがめが無いってだけであって、それを変なうわさでもされちゃあたまったもんじゃない。


 うるせっ。言い訳じゃねーよ。


 そう。だから、そんな事を言われたくないから俺だってたまには外に出るさ。

 それこそ今日だよ。三十歳の誕生日、誕生日だぞ?

 せっかくの魔法使いになったんだ、ならせめて自分にいいものを買ってやろう。ご褒美ほうび誕プレって奴だよ。


 だらしのない伸びっぱなしのひげって、滅多めったに着ないブランド物の服を着る。

 この服だって自分で買ったものじゃない。高校卒業の時にプレゼントされたものだ。

 それを、十年以上った今も着れるんだ。物持ちがいいってもんじゃないだろう?


 さて、街に出てどこへ行く?いいもんを買うって言っても、別に高級時計とかが欲しい訳じゃないんだ。高級品に興味きょうみもないしな。

 そうだな……精々、趣味しゅみのネトゲに使う高性能PCを買い替えるくらいだろう。

 しかし今や、それもネットで買える時代だ。わざわざ街に買いに行かなくったって、数日も待ちゃ知らんうちに届くからな。皆だってそうだろ?


 なのに――何故なぜ、俺は外に出ちまったんだろうな……

 この後に起こる事態が予測出来ていれば、絶対に外なんか出ねーのにさ。





 PC機材と言えばアキバだろう。

 自作PCのパーツを買いそろえに、俺はルンルン気分だ。足取りも軽い。

 気付けば急ぎ足でアキバに向かっていたよ。やっぱ、それなりに楽しみだったんだろうな。誕生日だもん。


 給料も振り込まれたばっかで、財布さいふはウハウハですよ。

 普段は使わない金も、今日ばかりは飛んでけ飛んでけだ。

 いっそモニターを五~六台増やすか?

 もともと使ってる趣味用しゅみようのPCもそろそろ動きが重い。

 何タイトルものネトゲを遊んできてるし……ほら、他にもいろいろと使うだろ?魔法使いならさ?


 そんな俺は、買い物の見積もりを計算しながら財布の中身とにらめっこをしていた。店の前・・・でだ。

 何故ならば、前にいたカップルが絶妙ぜつみょうにウゼぇんだ。人前でイチャイチャしやがって、全然進みもしねぇ。

 どうせこの後ホテルでも行くんだろ?こんなオタクの根城に来てんじゃねーよ。


 ――って、男チャレぇな。女も女でギャルギャルしいと言うかなんというか、まぁお似合いのカップルなんじゃねーの?死ぬほどウゼぇけど。

 ああもう、早いとこ自分の誕プレ買って、帰ろ。


 俺の顔にも出てただろうそのウザさの表現を、周りの仲間オタクたちも理解してくれたのか、俺に共感の視線しせんをくれる。

 そうだろそうだろ。ウザいよなぁやっぱり、伊達だてに魔法使い仲間じゃねーって事だろぉ!?

 勝手に自分の仲間にされた客たちだったけど、何だか顔が強張こわばってねーか?

 そんな変な空気の中、不意に俺の肩が叩かれた。

 ポンポン――と、それはもう鳥の羽ででるようなソフトタッチだったね。


 俺がつい反応して、「なんですか?」と、振り向いた瞬間。

 そこに居たのは背の低い女性だった。黒髪の、前髪の長い、ちょっと特殊な化粧けしょうをして、ゴシックな黒い衣装をまとった、いわゆる地雷系女子だ。

 だが、顔は中々に可愛いのではないだろうか。


 涙目で俺を見上げる視線しせんは、もう空でも見てるようにまっすぐであり、いっそ俺の事は見えていないのではないかとも思えたね。

 そして、俺が不思議ふしぎそうに声を出そうとした、そんな一瞬だった。


「……あ、あの……どうしたんで――」


 ドスッッ――!!


「……え……?――は?……」


 一瞬だった。

 彼女は一言「――邪魔」とつぶやき、俺の胸……心臓を一突きにしていた。

 ドサリ――と倒れる俺。もう、何が何だか分からなかった。

 ただ、そんな中でも聞こえるのは周りの声で。


 「男が刺された!」「血がぁぁぁぁ!」「な、なんでここに!?」「うそ。あぁ、間違えたんだ?」「け、警察を呼べっ!!」「救急車が先だろ!」「ち、違うんだよ?」「――その女……誰なの?」「お、おい、意識がないぞ!」「応急措置しろよ!」「な、なぁ?は、話をしようぜ?」「――ねぇ、その女……誰よ?」……と、はっきりと客たちの声が聞こえていた。


 その中からは……聞こえるよな。俺を刺した女の声もさ。

 そして最大限に理解してしまったのは……


 ――俺は死ぬんだな。それだけだった。

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