追放復讐Any%RTA 10:10

青水

追放復讐Any%RTA 10:10

「追放者ギルド? なんだそれ?」


 俺が尋ねると、隣の席の見知らぬ誰かは親切に教えてくれた。


「昨今、追放が流行ってるだろ? ……え、知らない? 『無能』あるいは『無能扱いされた有能な奴』がパーティーから追放されるんだ、リーダーによってな。で、そいつら――追放者たちが集まってできたのが、『追放者ギルド』。追放者ギルドでは、自分を追放したパーティーの奴らに復讐して、その様子を録画したものを見せあっているだとか。タイムアタックで好記録を叩き出した奴には、賞金まで支払われるらしいぞ」

「へえ」


 俺は他人事のように聞いていた。

 その様子を見て、男はにやりと笑って、


「あ、他人事だと思ってるな」

「あはは……」


 図星だったので、笑うしかなかった。


「明日は我が身だぞ、お前。お前だってな、『この無能がっ! 今すぐパーティーから出てけ!』って追放されるかもしれんぞ。……あ、もしかしてあんたソロ冒険者だったりする?」

「いや、パーティーに所属してるけど」

「うん。なら、気を付けたほうがいい」

「ご忠告感謝。だけどな、うちのパーティーに限っては、追放なんてありえないよ」

「ありえないなんてことはないぞ」

「いや、だって、俺たち幼馴染なんだぜ? ちっちゃいころからの。だから――」

「強固な関係ほどあっさり崩れ去るものだ」


 ぐびっと男は酒を飲むと、どこか遠くを見つめた。経験からのアドバイスだろうか? ありがたいと思う一方、酒場で隣の席になっただけの人のアドバイスが、一体どれほど参考になるのだろうか、とも思っていた。


「ま、幼馴染だから、友達だからって油断しないほうがいいぜ」


 真剣な表情で言う男に、俺は神妙な顔で頷いた。


 ◇


「お前のような無能は我がパーティーにはいらん! 今すぐ出て行け!」


 パーティーリーダーである幼馴染から、唐突で冷徹な宣告が告げられた瞬間思い出したのは、あの酒場での話だった。奇遇にも、俺のズボンのポケットの中には映像記録用の記録結晶が入っている。

 俺は自分でも不思議なくらいに落ち着いていて、記録結晶を作動させながら、幼馴染たちに追放理由を尋ねた。


「どうして、俺を追放するんだ?」

「お前が無能だからだっ!」


 パーティーリーダーが言った。


「昔から昔から、ずうっと無能なお前の尻拭いばかりさせられてきた! もううんざりなんだよ!」


 嘘はついてない。だが、それがすべてというわけではないだろう。

 パーティーは俺を含めて五人で構築されている。全員が幼馴染で友達。だけど、一人だけは幼馴染であっても友達ではない――それ以上の関係、恋人だったりする。

 そういえば、こいつは俺の恋人のことが昔から好きだったな。俺は恋人のことを見つめたが、彼女は俺のことなど見てはいない。彼女はリーダーのことを、まるで自分の恋人のように甘く見つめている。追放されつつある俺のことなど眼中にないようだ。

 ああ、そうか……。そういうことだったのか……。

 だから、俺を追放するのか……。邪魔者なのだ、俺は。

 他の二人はリーダーのイエスマンだ。俺の言うことにはなかなか賛同してくれないが、奴の言うことならなんでも賛同・肯定する。そんな奴ら。

 俺は無性に腹が立った。


「おい、早く出てけ――」

「クソクソクソクソオオオオオォォォォォ――!」


 人生で初めてだ、ここまで大きな声で叫んだのだ。苛立ちを放出するような俺の叫びは、どこか遠くへと届いたようで――。

 ポーン、と謎の音。


『スキル〈絶対爆殺〉を取得しました』


 突然、脳内に響いた声に俺は驚いた。

 周囲を見回してみるが、声の主らしき人物などいない。だとすると、この声の主は一体……?


「え、え……?」

『爆殺したい対象の頭部を手で掴んで、「死ね」と言えばスキルが発動します』

「本当なのか、それは?」


 尋ねてみたが、返答はなかった。どうやら、一方通行のようだ。何度か話しかけてみたが、反応はなかった。説明は終わってしまったようだ。


「てめえ、一人でぶつぶつ何言ってやがる!」


 ぶん殴ろうと大股で近づいてきたリーダーの頭を、俺は右手でがしっと掴んだ。


「なっ……てめ――」

「死ね」


 すると、リーダーの頭が爆発し、血や肉があたりに飛び散った。

 突然の死に悲鳴をあげるパーティーメンバー――いや、元パーティーメンバーか……。

 俺は狂気の笑みを貼り付けたまま、イエスマン二人を次々に爆殺させていった。彼らは泣き叫び、許しを請うたが遅すぎた。

 そして、最後に一人残された元恋人の頭に手を置く。彼女はその場に崩れ落ち、わけもわからずひたすらに泣いていた。


「お願い……許して……」

「いまさら謝ってももう遅い」


 決め台詞のように言うと、「死ね」と呟いた。

 その瞬間、元恋人は死んだ――。


 追放からわずか10分で果たされた、空虚な復讐だった。


 復讐の様子が記録された記録結晶を追放者ギルドへと持っていった。彼らは俺のタイムに驚愕・歓喜した。どうやら、ワールドレコードだったようだ。賞金をもらった俺は、追放者ギルドの存在を教えてくれた男に酒を奢るために酒場へと向かうのだった。

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追放復讐Any%RTA 10:10 青水 @Aomizu

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