銀盤の巣【0:0:3】15分程度

嵩祢茅英(かさねちえ)

銀盤の巣【0:0:3】15分程度

不問3人

15分程度


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「銀盤の巣」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

アサヒ:不問:

ナツキ:不問:

ヨツバ:不問:

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アサヒ「(雪深い山の中を歩いている)

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…

今年はたくさん、雪が降ったな…

思うように前に進まない…

でも、何か…獲って帰らなきゃ…」


アサヒ「(山道を小一時間ほど歩き、中腹の沼に着く)

…ふぅ…やっと沼か…

獣がこの辺りまで、下りて来てればいいんだけど…」


アサヒ「(辺りを見渡す)ん?あれは…

木に実が成っている?こんな時期に…?」


アサヒ「(足元の沼の表面を確認する)

沼は…厚い氷が張っている…

このまま沼の上を歩いて、木まで行けそうかな…

少しでも多く、食べられる物を持って帰らないと…」


アサヒ「(沼の上を歩き出し、木まで移動する)

あと少し…あと、もう少し…」


アサヒ「(木の側に着く)ふぅ…」


アサヒ「(実を取るために手を伸ばして一つ取る)よいしょ、っと…」


アサヒ「見たことない実だな…」


アサヒ「(匂いを嗅ぐ)甘い匂いがする…」


アサヒ「(一口かじる)ん!甘い…

この木が何の木が分からないけど、実が成っているのを見るなんて、初めてだ…」


アサヒ「(足元から、ピシッと音がする)…ん?…っ!!

まずい、氷にヒビがッ…!!!」


アサヒ「(足元の氷が割れて、冷たい水の中に落ちる)ゴボゴボゴボ…!」


アサヒM(体が凍りそうなくらい水が冷たい…早く、早くここから出ないと…!!


もがけばもがくほど、力が、入らなくなってくる、水草が絡みついて離れない…


冷たい…寒い…暗い…


どうし、よう…)


【間】


アサヒ「プハッ!

…ッハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!!!

どうやって、上がって来た…?

…服が…ない…沼の中でもがいて脱げたのか?そのおかげで抜け出せた?

いや、そんな事はいい!

今はとにかく、早く沼から出て、帰らなくちゃ…!」


アサヒM(それから転げるように山を降り、家に帰った


不思議と、寒さは感じなかった


家に入り、適当な布で体を拭くと


氷の粒がパラパラと辺りに散らばった


…その日から、寒さを感じる事はなくなり、


体は、氷のように冷たかった)


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アサヒ「銀盤ぎんばんの巣」


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ナツキ「アサヒ!」


アサヒ「ナツキ」


ナツキ「今日もいい天気だねぇ!」


アサヒ「…そうだね」


ナツキ「えいっ!」


アサヒ「…おい!重い!」


ナツキ「あはは!だってアサヒの体って冷たくて気持ちいいからさぁ!」


アサヒ「あっそう」


ヨツバ「おうおう、またアサヒに絡んでんのか?ナツキ」


ナツキ「絡んでないよ!触ってるだけ!」


ヨツバ「アサヒも嫌なら嫌って言えよ」


アサヒ「毎回、『重い』とは言ってるんだけどなぁ…」


ヨツバ「そんな遠回しな言葉じゃ、コイツには伝わらねぇよ」


ナツキ「ちょっとヨツバ!まるで迷惑みたいに言わないでよ!」


ヨツバ「迷惑でしかないだろ」


ナツキ「えっ!嘘?!アサヒ、迷惑だった?!」


アサヒ「はぁ…別に、迷惑ではないよ」


ナツキ「ホラ!迷惑じゃないって!

ヨツバが意地悪な事言うから、ビックリしちゃったじゃん!」


ヨツバ「いや、お前は少し遠慮しろ…

それと、アサヒはナツキに甘すぎる!」


アサヒ「それは…ナツキとヨツバくらいだから」


ナツキ「…え?」


アサヒ「俺の事、けないでいてくれる人」


ナツキ「アサヒ…」


ヨツバ「当たり前だろ。ガキの頃からいっつも三人一緒だったんだから」


アサヒ「でも…でもさ。

あの冬の日に、いわれのある沼に落ちて生きて帰った。

それから体が氷のように冷たくなって、寒さを感じなくなって…

俺は沼に魂を取られたんだって…

だから皆、俺の事、気味悪がって近づかない」


ヨツバ「そんなの気にするな。お前は生きてここにいる。

アサヒは何も変わってない。

沼のいわれもな、年寄りが言ってるだけだ。」


ナツキ「そうだよ!もし本当にあの沼が『生命いのちを食らう沼』だったら、アサヒは今ここにいないじゃん!」


ヨツバ「そうだぞ!」


アサヒ「…うん、ありがと」


【間】


ヨツバ「しっかし、こう日照りが続くと作物も育たねぇよなぁ…」


ナツキ「そろそろ恵みの雨が降ってくれればいいんだけど…

あっ、雨乞あまごいに、踊ってみる?!」


ヨツバ「バカ丸出し」


ナツキ「はぁぁぁー?!?!」


アサヒ「はぁ…はぁ…」


ナツキ「ん…アサヒ、具合悪いの?すごい汗だよ?」


アサヒM(汗?これは、汗なのか?)


ヨツバ「息苦しそうだな…アサヒ、今日は家で休め」


ナツキ「一人で帰れる?一緒に行こうか?」


アサヒ「…大丈夫。

ありがとう、今日は休ませてもらうね…」


ナツキ「うん、気をつけてね!」


【間】


ヨツバ「…本当に大丈夫か?足取りがおぼつかないみたいだけど…」


ナツキ「…後で様子を見に行こうか」


ヨツバ「そう、だな…」


【間】


アサヒM(二人には悪いことをしたな…


それにしても、体が重い…


重くて、床に張り付いてるみたいだ…


それに汗も止まらない…


寝れば…良くなる、の…かな………)


【間】


《玄関の戸を開ける》


ナツキ「アサヒー!具合どうー?」


ヨツバ「バカ!寝てたらどうすんだよ!もっと静かに入れ!!」


ナツキ「えへへ、ごめんごめん…

あれ、アサヒ?居ないの?

布団はあるけど…………

えっ…何、これ…」


ヨツバ「なんだ、アサヒ居ないのか?」


ナツキ「ヨツバ、これ…」


ヨツバ「どうした?」


ナツキ「これ…見て…」


ヨツバ「ん?…これは……」


ナツキ「…服だけが布団に入ってる…まるで、アサヒが溶けたみたいに…」


ヨツバ「…なんだ、これ…

アサヒはこんな、いたずらするような奴じゃない…」


ナツキ「ねぇ、アサヒ、どこ行っちゃったの?これって!どう言う事なのっ?!」


ヨツバ「落ち着け!…落ち着けよ…今考えてるから…!!」


ナツキ「〜〜〜っ!」


ヨツバ「泣くな!…とりあえず、外、探しに行くぞ!」


ナツキ「うん!」


【間】


ヨツバ「ナツキ!居たか?!」


ナツキ「ダメ!どこにもいない!!」


ヨツバ「こんだけ探して、なんで見つかんねぇんだよ!!」


ナツキ「ねぇ!アサヒ、溶けて無くなっちゃったんじゃないよね?!」


ヨツバ「バカ!!んな訳ねぇだろ!!」


ナツキ「だってぇ…(泣きそう)」


ヨツバ「…山……山は?」


ナツキ「えっ?」


ヨツバ「山は探したか?」


ナツキ「山には入ってない…」


ヨツバ「じゃあ…」


ナツキ「山に、行くの?」


ヨツバ「他に探せるところは探した!あとは山だけだろ!」


ナツキ「でも、もう夜になるよ?」


ヨツバ「だから?」


ナツキ「…だから…」


ヨツバ「お前が来なくても、俺は行くよ」


ナツキ「…ッ!一緒に!行く!!」


ヨツバ「無理して来なくてもいい」


ナツキ「無理なんかじゃない!だって…アサヒが心配だもん…

山にいるのなら…探しに行く!」


ヨツバ「…ん。夜の山は危ないからな。二人一緒に行動するぞ」


ナツキ「分かった!」


【間】


ナツキ「アサヒーーー!!!」


ヨツバ「アサヒ、いるかーーー!!!」


ナツキ「はぁ、結構登ったよね…」


ヨツバ「そうだな…でも月のお陰で視界はいい」


ナツキ「今日は満月だったんだ…」


ヨツバ「…ん?」


ナツキ「ヨツバ?どうしたの?」


ヨツバ「沼が…」


ナツキ「え?」


ヨツバ「沼が、干上がってる?」


【二人、沼まで駆け寄る】


ナツキ「なに、これ…」


ヨツバ「動物の、死体?」


ナツキ「こんなにいっぱい…なにこれ…怖いよ…」


ヨツバ「…アサヒ…」


ナツキ「え?」


ヨツバ「アサヒがいるかも知れない、探そう!」


ナツキ「えっ?この中を?」


ヨツバ「そうだ!」


ナツキ「ちょ、ちょっと、ヨツバ!」


ヨツバ「早く来い!」


【山のさまざまな動物が横たわる隙間を縫ってアサヒを探す二人】


ナツキ「ま、待ってよぉ!」


ヨツバ「クソッ、歩き、づれぇ!!」


ナツキ「うう…なんで沼が干上がって、沼の底にこんなに動物がいるのぉ…」


ヨツバ「…あ…アサヒ!!!」


ナツキ「えっ…アサヒ、いた?!」


ヨツバ「(アサヒに駆け寄り、体を起こす)アサヒ!おい!アサヒ!!」


アサヒ「…………………ぁ…」


ナツキ「アサヒぃ〜!!!」


アサヒ「…………ナツキ?…それに…ヨツバ…」


ヨツバ「~~~ったく!!心配させんなよ!!!」


アサヒ「…ここ、どこ?」


ナツキ「山のね、沼が干上がってて…

だからここは、沼の、底!」


アサヒ「…沼…?…確か…家で寝てたはずなのに…」


ナツキ「うん………あっ」


ヨツバ「…動物たちが、起きがあっていく…」


ナツキ「みんな、生きてたんだ…」


ヨツバ「………もしかしたら、の話だけど…」


アサヒ「うん?」


ヨツバ「この沼は『魂を食らう沼』じゃなくて、

沼に落ちた者の肉体を食らうためにとどめていたとか…」


ナツキ「えっ!怖い…!!」


ヨツバ「それか…」


ナツキ「それか?」


ヨツバ「沼が干上がった時のために、

沼に落ちた者の体を水で作って、外に散らばらせておいたのかもな」


ナツキ「…うぇ?…難しくてよく分かんないぃ…」


ヨツバ「まぁ、多分、後者かな。

動物が倒れていた所、見てみろ」


ナツキ「…!水が、湧いてきてる?」


ヨツバ「その動物の体積分の水は、これで補充できる」


ナツキ「えっと…?だから、ヨツバの体はいつも冷たかったの?」


ヨツバ「沼の水で出来てたのかもな」


アサヒ「…でも、村にいる時のことも全部、覚えてるんだけど…」


ヨツバ「まぁ、俺も分からねーよ。今言った事も、仮説に過ぎない」


ナツキ「アサヒが無事なら、それでいいよ!!ね、早く帰ろう?」


ヨツバ「そうだな…アサヒ、立てるか?」


アサヒ「んっ、…あれ、力が入らない…」


ヨツバ「…冬からここに居たとなると、筋肉が落ちたってとこか?」


アサヒ「…そうなのかな…困った」


ヨツバ「ホラ、掴まれ。家までおぶってくから」


ナツキ「明日から少しずつ動かないと、だねぇ!」


アサヒ「そうだね…」


ヨツバ「…あったかい」


アサヒ「えっ?」


ナツキ「なぁに?」


ヨツバ「背中、温かいよ。アサヒ」


アサヒ「(涙声で)…うん」


ナツキ「ふふっ、おかえりなさい!アサヒ!」


ヨツバ「おかえり」


アサヒ「(涙声で)…うん、ただいま…」

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