第12話
ボトリと音をたてて、ピースケは泥のなかに落ちた。
ちいさな体を震わせ、最期にピェと鳴いた。
地にできた水たまりがピースケの血で赤黒く染まっていく。
舌打ちと空薬莢の弾かれる音が、藪のおくからきこえる。そのあわてた様子から、一撃で仕留められなかったことへの焦りが伝わった。
陽の木の弓に矢をつがえ、藪にむけて放った。
男のくぐもった悲鳴とともに、赤いマントがひるがえった。
距離をつめ、男の手にあったピストルを蹴飛ばした。
「カゼユキ」
矢は喉に突き刺さっていた。
「あの日、ぼくとキマイラが遭遇したのをみていたのか」
「い、いやだ。し、死ぬ……。死にたく、ない」
カゼユキは喉をヒューヒューと鳴らしながら、空気をもとめていた。
「トオ……ル、たす、たすけて……」
喉に刺さった矢を必死に抜こうとするが抜けなかった。傷口がやぶれ、更に出血の量は増えていく。目からこぼれ落ちる涙が、泥とまじりあう。
「ぼくのことを内通者といったのも君だな。町に伝令を送ったのも、君だろう? 今日もぼくがキマイラとあうとおもった?」
ぼくは矢をさらに深くへと突き刺した。喉を搔き切る。カゼユキは悲鳴をあげようとしたが、声道がつぶれたのか、静かに絶命した。
矢を折った。そのまま藪のなかへ放りこんだ。
カゼユキの死体に、つめたい雨が打ちつける。
「ぼくは君のことを友達とおもっていたよ。けど、君はちがった。だからあの日、ぼくにカマをかけたんだ。森で銃声をきかなかったかって」
保政官になるための足掛かりにぼくを利用した。おそらくそうだろう。
キマイラの行動には、知性をかんじられる。
目撃者がでないよう気遣ってか、夜に人を襲う。町には近づかない。大勢の人と戦うのは危険だとわかっているのだ。だが、先ほどのアサナギの話から、キマイラにとって人は脅威ではないとわかったが。
町の上層部はキマイラの行動から、人がキマイラを率いていると読んだ。
森に入るぼくが無事に帰ってくるのを、カゼユキはあやしみ尾行した。
そしてあの日。
――森で銃声があったの、しってるか?
キマイラに襲われなかったぼくと、キマイラの背に乗る男をみた。
ぼくが内通者と紐づけ、上層部に訴えかけるのはたやすかった。
カゼユキの今日の行動から察するに、保政官になるための条件は、内通者であるぼくの暗殺だろうか。
だが、それは失敗した。
「ピースケ……」
弾丸の衝撃でちいさな体は崩れている。衝撃で胸の皮膚と肉が削がれ、内臓と骨がはみ出ていた。ぼくとアサナギにむけてくれた人懐っこい澄んだ目は、空をみつめたまま、虚無でそまっている。もう、そのちいさな嘴からさえずりをきくことはない。ぼくはその体をかかえて、近くの木の枝の上で寝かせた。
ピースケがぼくを助けたのは、アサナギの意志だろうか、それとも。
「またあとで供養にしにもどるから」
墓を作ってやりたかったが、ぼくに残された時間はすくなかった。
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