詩「真昼の夢」

有原野分

真昼の夢

郵便局まで歩く道すがら

枯れた木々の揺れる音が

わたしたちをあたためる

足は緩やかに好奇心を見つめる

速達で出した封筒の行く先を

安心して眺めていられるのは

そういう訳で


手の震えがいつの間にか

蛇口をひねったら出る錆のように

当たり前になっていた

頭の痺れが冬の深さを物語る

切り花が水を吸い込もうとしても

部屋の空間という概念がわたしの邪魔をする


窓ガラスの向こう側に月が張りついた


コタツの上に転がるみかんの皮のように

誰かが残したりんごの芯の抽象画のように

風雨に晒されて孤独死した公衆電話のように

山々に吸い込まれていく夕暮れの余暇のよう

 に


どうやらわたしたちは心の奥底で

座りながらじっと夜を待っている


口笛を吹いて蛇を呼ぼうか

爪でも切って不幸に酔うのもいい

猫がときおり見せる艶まかしい寝姿を抱き

眠り続ける人生のひと時だってあるはずだ

植物はつぼみに戻る

月明かりは懐中電灯

電池の切れた星々が散っていく

胃液のような空気が天井を覆う


小さな夜を枕にして

小さな夢を遠くに見つめる

真昼のキラキラ光る太陽の粒が

枯れ葉のようにふっと落ちてくる

わたしは今夜も大地に足跡をつける

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詩「真昼の夢」 有原野分 @yujiarihara

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