異世界勇者は魔王が斃す ~女神に頼まれてチートスレイヤーにさせられた件~

伊瀬井セイ

第一章 プロローグ

第1話 宿命と邂逅

「もし。私の声が聞こえますか?」


 心にるような、わたった声にうながされ、男はまぶたを開いた。真っ白な空間、そして目の前にたたずむ、若くも大人おとなびた端正たんせいな女性。この光景にはどことなく覚えがある。


貴様きさま、まさか神か?」


 男はわずかに眉間みけんしわせ、見知らぬ相手を見下す。その燃え盛るような紅蓮ぐれんの眼球はどうしようもなく冷え切っており、差別的な視線が女性を鋭く貫いた。


 勿論もちろんのこと、男の態度に好意的な意味合いなどは微塵みじんも存在しなかったのである。


 その女性は、自身の一,五倍近くはあるいかつい鎧男よろいおとこにいきなり圧をかけられ、本能的に顔をこわばらせた。胸にし当てていた両手の力が強まり、それらの仕草しぐさからは隠しきれぬ緊張が見てとれた。


「そうです。よくお分かりになりましたね、魔王カイン」


 魔王と呼ばれた黒鎧こくがいの大男は何も言わず、ただ話を聞いている。


「私はエール。あなたが所在している世界、パステリトゥムを管理していた『真実をつかさどる女神』です」


 その女性、女神エールは、ぎこちなく魔王に微笑ほほえみかけた。

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