渾身の右ストレート

メロンちゃん。

第1話 最強

「おおっと!日本最強チャンプ桐山の右ストレートがきまったぁ!!」


 それは、日本最強のボクシングチャンプを決める大会の決勝戦。

 最強チャンプ桐山は、相手の杉山に顔面右ストレートを命中させた。


「これはもう決まった、決まってしまいましたー!!」


 最早今大会も桐山の勝利だろう。

 会場の誰もがそう確信していた。


 否、桐山と杉山以外は。


「くくく……どうしたチャンプ。顔面右ストレートを決めたにしては、悩み顔じゃねえか」


 杉山が不気味に笑う。

 剃り上げた頭が天井のライトを朧げに反射する。


「……お前、俺にさっきからわざと顔面を狙わせているな? 対するお前は俺にボディばかり打ってくる。何が狙いだ?」


 桐山が冷静に分析して杉山に問う。

 杉山はニヤリと笑った。


「くく、さあ?なんだろうなぁ!?」


 杉山が再度動き出す。

 桐山は隙だらけの頭を躊躇なく迎撃する。

 そして杉山は変わらずボディを打った。


「何度やっても結果は……う!?」


 同じことの繰り返し。

 そう思っていた桐山だが、違和感に気付く。

 身体が、指先一つ動かせないのだ。


「くっくっく。お前の攻撃は効いたぜぇ、桐山。だが、もうお前は動けねえだろう。なんせ俺はお前にボディを撃ち続け、体力を根こそぎ奪ったんだからなぁ。最早身体は動くまい」


 一般的に、ボディを打つと体力を多く消費させられる。

 そしてそのボディを撃ち続けることにより、杉山は桐山の体力を全て奪ったのだ。


「さあ、今度はこっちの番だぁ!!」


 杉山はラッシュする。

 頭、身体、腕、その他。

 徹底的なラッシュたるや、嵐の如く。

 会場も、その異変に気づく。


「や、やめてくれ杉山ぁ!チャンプが死んじまう!!」

「へへ、馬鹿どもが。チャンプはここで死ぬんだよ!!」


 杉山のラッシュは止まらない。


「……お前、俺を殺す気か。何故だ」

「アメリカのボクシング協会が、お前の神の腕を欲しがってんだよ!だからお前を殺して腕をもらうぜぇ!」


 言って、杉山は渾身の右ストレートを桐山の顔面に打ち込んだ。

 しかし、ここで杉山も又、異変に気付いた。


「……何故だ、何故死なねえ……ッ!?」


 桐山は反撃してこない。

 しかしまるで倒れる気配がないのだ。

 何故。

 動揺する杉山に、桐山が薄く笑った。


「……お前、武田信玄を知っているか?」

「!?」


 かの昔、武田信玄は言った。




 ーー動かざること、山の如し。


 動かない山は、攻略できないのだ。



「こ、これは!チャンプの富士山ふじやまディフェンスだぁぁぁ!!」


 司会の興奮気味の声に、杉山が気圧される。


「ふ、富士山ディフェンスだと!?何だそれは!」

「動かないことで鉄壁の防御とする俺の必殺技さ。そして俺は富士山。日本一高い山を、お前は攻略できるかな?」

「な、舐めやがってぇええええ!!!」


 杉山がパンチを浴びせる。

 しかし、効かない。

 山に拳など、効かないのだ。


「もういいのか?ならこっちの番だ」


 桐山が動き出す。

 山が、動く。

 その様相、最早エレファント。


「俺の一撃は、少し重いぜ」

「ち、ちくしょぉおおおおおー!!!」


 杉山が吹き飛んだ。

 象の一撃は、彼の体力だけでなく重力をも奪ったのだ。


「け、KO!流石は日本最強チャンプ!これで51連勝です!!」


 会場が湧くのを尻目に、桐山は彼の拳を見つめた。


(俺の拳を、アメリカが狙っている……?)


 桐山は薄く笑った。


「ふ、なら確かめに行ってやるか」


 桐山はリングを華麗に飛び降りる。

 そしてそのままその足で、日本のアメリカボクシング協会へと向かった。

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