わかりきった結末
早雲
第一部
第1話 明かされない過程
私には不思議な
でもどんな贈り物だって、受け取る側の気持ちを汲まなければ、ただの自分勝手。
だから私は、きっと神様は自己中心的な性格なんだと子供心に確信した。
他人より秀でた能力はときとして、その能力の保持者を有利にしない。
他人より秀でた能力はときとして、大勢からの攻撃の的になる。
そんな理由で私はできることをできないふりしてきた。それが平和に生きる道だ。
だけど、ここは私だけの場所だ。だから、あえて言葉にしてみようとおもう。
私に何ができるかを。何を隠してきたかを。何におびえたかを。
私には、たとえどんな人でも、その人が次にとる行動がわかってしまうのだ。
まるで過去を思い出すかのごとく、はっきりとわかってしまう。
それが私への、神様からの贈り物だった。
◯
「みんな幸せになりたいがゆえに生まれて、生きているはずなのになぜこのような惨劇が起こるのでしょう。先生」
殺風景が広がっている。
少女は私の教え子で、私は少女の先生だから、質問には答えなければならない。
「わからない」
積み重なった元、生命たち。その体に集めていた化学反応群。可逆性のものが消えて不可逆性の反応だけ進行する。ゆえに生命のサイクルは停止する。カスペルの法則によれば、地上での死体の腐敗速度は速いそうだから、彼らの命の残滓も長くさらされることはないだろう。
少女は言う。
「先生。私は今まで信じてきましたの。何を、と聞かれると兎に角答えづらいものですけれど、それでも何かを信じてきましたの。それでも今見ている眺めを知ってしまって、信じていたものが音を立てて崩れていくような気がしています」
私はその何かを知っているようにおもう。人類が持っている本能を、醜く下衆な習性を覆い隠すのに絶対必要なものだ。人が人たるために最優先にしなければいけないものだ。それでも今眼前に広がることを確認した後で、口にするにはあまりに心もとない言葉。
「……」
生徒たる少女に道を示す役割を課されているにもかかわらず、私には何も言えなかった。少女は抑揚のない声で、こう言った。
「微塵の救いもございません」
私は無言で少女の手を取って、その場を離れることにした。
その戦場を。
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