第2話
明日の遠足は中止ね。
朝ご飯を食べていた僕は、お母さんが台所から言ったその一言で一気に食欲をなくした。
まだわからないよ、と僕は無理矢理トーストをかじりながら負け戦を仕掛けた。
「明日になったら止むかもしれない」
「天気予報じゃ来週の半ばまでは降るって」
「そんなの絶対じゃない」
苦し紛れだ。僕の約十年間の人生で天気予報が外れた記憶はなかった。
「まぁ仕方ないわね」
お母さんは僕と戦うことすらせずにそう呟いた。
リビングにやってきたスーツ姿のお母さんは化粧もバッチリで今日もきまってた。手にしているマグカップには見ているだけで苦そうな真っ黒いコーヒーが入っている。それを美味しそうに飲みながら椅子に座った。
「別にいいじゃない、遠足なんて。常盤自然公園だったっけ? あんなところ友達とだけでも行けるでしょ」
簡単に言ってくれる。
シングルマザーで、仕事で偉い立場のお母さんは友達がいっぱいに違いない。きっと十歳の頃からずっとそうだったはずだ。黙っていても誰かが寄ってきて、勇気を出さなくても誰かから遊ぼって誘いがきた人だろう。
僕はお母さんの子どもだけど、お母さんのようではない。僕にとってみんなで遊ぶチャンスは、行事くらいしかなかった。
「亮人くんと賢太くんと探険する約束だったんだ」
「探険? あぁ確かにあそこ広いもんねぇ」
「いろんな計画、立ててたんだ」
叩きつけるような外の雨音とお母さんのため息が同じ音量で聞こえた気がした。
「だったら、今度その二人と一緒に行けばいいんじゃないの?」
「……」
僕は奥歯を強く噛み締めた。
お母さんは何もわかってない。亮人くんと賢太くんがどんな子なのかも知らない。きっと顔だって知らないし興味だって持たない。あの二人は親友同士だ。けれど、僕は違うんだ。
「ていうかあんた、そんなに遠足楽しみだったの? ちょっと意外。昔から外で遊ぶの好きじゃなかったでしょ」
「……」
僕が何も応えずにいるとインターホンが鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます