第3話
「ただいま~、アキ姉ぇ~ジュース取って~」
女の子の声。
アキラちゃんを姉と呼ぶ事から妹さんなのだろう。一人っ子じゃなくて姉妹だったのか。
「うち、三人姉妹なんです」
「あ、そうなんだ? じゃあ……」
「あとは上に姉がいて、私は真ん中なんすよ。今帰ってきたのは、一つ下の#叶__かなえ__#です」
「アキ姉ぇ誰と話してるの……あ、こんにちは」
ひょこりと顔を出したのは、小動物のような子だった。
短めの髪のワンサイドアップが幼さを強めていて、可愛らしい子だ。
「叶、母さんが言ってた、今日からうちに来た楓太さん」
「初めまして、叶ちゃん」
「はじめましてぇ! これからよろしくおねがいします!」
ぺこりと頭を下げて挨拶。なんだか本当に言動が子供のようで思わず微笑ましくなってしまう。
そんな事を頭の隅で思っていると、叶ちゃんの肩にかけていたスクールバッグから何かが落ちた。
正直目を疑った。
それがメリケンサックだったから。
「え?」
「あっ、とと」
「叶、それ持ち歩くのはやめなって言ってるだろ」
そうだ、確かメリケンサックは所持しているだけで逮捕や補導の対象になると聞いたことがある。
叶ちゃんのような子がどうしてそんなものを持っているかは甚だ疑問だが、アキラちゃんの反応から常に持っているようだけど……。
「武器使うのは卑怯だろ」
「ん?」
想像していた咎め方と違う。そう、まるでそれらを使う状況については気にしていないというか。
それを使わないなら問題は無いと言いたげで、俺はそれがかなり引っかかった。
「もー、アキ姉ぇってば。楓兄ぃがびっくりしてるよ」
「あぁ、すみません楓太さん」
「い、いやいいんだけど……えーと」
何から聞けばいいかわからない、正直察しはつくけれど俺は最も確認しておきたい事を二人に訊いた。
「あのお二人は……喧嘩とかする感じでしょうか……?」
「ふっふっふ」
叶ちゃんが不敵な笑みを浮かべる。純粋そうな容姿も今では捉え方が違う。
もしかしてこの姉妹は──
「自己紹介しよう楓兄ぃ……初めまして! 矢ヶ峯中学校、番長──八月朔日叶です! どうぞよろしくー!」
想像の遥か予想外のところへと飛んだ。
矢ヶ峯中学、番長。言葉を繰り返すと訳がわからない。
俺のイメージする番長というと、屈強な体躯の豪快な男子だった。しかしどうだろう、目の前で番長と名乗ったのは、それとは真逆の存在だ。
混乱さえしてくる。
「ほら、アキ姉ぇも」
「いや、アタシはいいよ別に」
「いいからいいから!」
叶ちゃんの言葉にため息をつくアキラちゃん。
すると何かを諦めたかのように、渋々と言った様子で名乗った。
「西城高校、一年。番長──八月朔日アキラです」
そこで俺はようやく理解した。
ものすごく稀有な状況と対面しているのだと。
居候先で二人の番長。どんな巡り合せをしたらそうなるんだ。
「待って……そういえば、あと一人……」
「あぁ、姉さんですか」
「愛花姉ぇもすごいんだよ! この前は単身で男子校潰してたし」
「アタシ等二人がかりでも勝てねーな」
さらりと聞かされた内容に肝が冷える。
一体この二人の姉とはどんな人なんだ……そしてこの三人を産んだ両親は……。
あまりの情報量に頭がパンクしそうになってきた頃。
今日、二度目の玄関からの戸が開く音がした。
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