ちーちゃんとみゃーちゃん

三郎

第1話:私の好きな人

 あの人が好き、カッコいい、付き合いたい。友人達が楽しそうに話す恋の話が好きだった。けれど、自分に振られるのは苦手だった。他人の恋愛話を聞くのは好きだったけれど、自分の恋愛にはあまり興味がなかったから。中学生になったら興味を持つようになるかと思ったけれどそうでもなくて。周りに置いていかれる気がして、少し焦っていた。救いだったのは、幼馴染のみやびも私と同じく恋愛に興味が持てなかったこと。


「ちーちゃんと居る時が一番落ち着く」


 彼女は口癖のようにそう言っていた。私も同じ気持ちだった。


 中学二年になると、クラスの男子が雅のことを「彼女にしたい」と噂しているのを聞いた。どうやら彼女はモテるらしい。それに対して雅は複雑そうだった。


「みゃーちゃん、ちょっと、愚痴聞いてもらってもいい?」


「む。どうした?」


 ある日のこと、男子から向けられる恋愛感情が不快だと、彼女は私に打ち明けた。


「こんなこと言ったらモテ自慢だと思われちゃうかと思って、誰にも言えなかったの」


「まぁ、君は実際モテるしな」


「嬉しくない。気持ち悪い。けど、こんなこと思っちゃうのは失礼よね?」


「……思っちゃうのは仕方ないんじゃないか?口や顔に出さなきゃ大丈夫だよ」


「……ちーちゃん優しい」


「はっはっは。甘えて良いぞ。ほれ」


 と、冗談で両手を広げてみせると、彼女は本当に甘えるように抱きついてきた。しかし私の方が小さいため、私の方が彼女にすっぽりと包まれてしまう。


「ふふ。ちーちゃん、ちっちゃくて可愛い」


「む。失礼な。私の成長期はまだこれからなんだ。みてろ。いずれ君を追い越してやるからな」


「ふふ。どこまで伸びる予定なの?」


「そうだな……170……いや、180はほしいな」


「そんなに大きくなったら困るわよぉ。腕の中に収まらなくなっちゃう。小さいままでいて」


「むぅ……しかし、このまま大人になってしまったら合法ロリというあだ名をつけられてしまう」


「大丈夫よ。18歳までは非合法ロリだから」


「何が大丈夫なんだ。結局ロリじゃないか」


「ふふ」


「全く。冗談が言える元気はあるみたいだな」


「ふふふ。大好きよ。ちーちゃん」


「あぁ、私も好きだよ」


 この時の好きはまだ、友情の意味だった。多分、彼女も同じ意味だったと思う。


 しかしそれから数ヶ月後、初めてLGBT講習を受けた。同性愛者の存在を知って、私が今まで男性に対して興味を持てなかったのは自分が同性愛者だったからなのではないかという仮説を立てた。周りの言う恋の特徴に当てはまる女性に一人、心当たりがあったから。そう。雅だ。

 私は彼女が誰かと付き合うことを想像しただけで嫌な気分になる。それはただの独占欲だとずっと思っていたけれど、もしかしたらそれこそが恋だったのかも知れないと考えるようになってからは、彼女のことを意識してしまい、彼女の顔を見れなくなった。


「ちーちゃん、最近変よぉ?」


「そ、そうか?いつも通りだが?」


「最近ずっと目が合わないもの。何か悩みがあるのでしょう?話して良いわよ」


「悩みは……うん……まぁ……無くはない……んだが……」


「幼馴染の私にも話しづらい?」


「……実は——「なぁ、聞いた?あいつホモらしいよ」


 雅に悩みを打ち明けようとした瞬間だった。どこからか、同性愛者を笑い者にするような声が聞こえてきて、背筋が凍った。好きだと伝えたら引かれるのではないかと怖くなってしまった。だけど——


「この間LGBTについて講習受けたばかりなのにあんなこと言えるなんて。呆れちゃうわね」


 雅がため息混じりに何気なく呟いた言葉で、男子達は黙り込んで気まずい空気が流れた。凍りかけた私の心は救われた。その瞬間、私は確信した。彼女が好きだと。そして決心した。例え叶わなくとも、この想いを誤魔化したりしないと。

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