第12話 城

 飛行体の上昇が一服すると、内部空間の高さ五メートル程、直径五百メートルの城のエントランス部分に通された。人工的な光に包まれた場所、空間の色はエメラルド色だった。

 三人の女性たちは三人の男たちを飛行体から下ろすと、今度はヘルメットを外さないまま、そそくさと消えてしまった。

 男三人は、まるで失恋したかのように、傷心して、目に力がなかった。

 歩いて来る音がした。近くで止まると男は言った。

「ようこそお城へ。私は第百三代城主のアメン・ローストだ。アメンと呼んでくれ」

 城主自らが向かいに来たのに驚きを隠せなかった。

「道中はいかがだったかな?私には特に詳しい報告はないが、ま、苦労はしてるように見える。お城を案内する」

 中年の腹の出た男は、派手なローブを来て、指先を上げた。

 シロシ、センリ、ショウは後を追って行く事にした。

 円形広場をずっと端まで歩いて行くと、そこには上下する一台のエレベーターがあった。

「ではこれに乗って、上へと」と城主が案内した。

 中に乗るとかなり狭かった。太った男と大きな男二人と筋肉質な男が乗り合っていたからである。極めて狭く城主は絶えず咳をしていた。

 重力のかかる早いスピードで、上昇しては急にエレベーターは停止した。エレベーターホールに出ると、エスカレーターが控えていたので、長いそれに乗り上昇して行った。

 随分と長い時間みんな乗り合わせて、いつ終わるかと城主以外の面々は気分を悪くしていた。

 と感じているうちに、エスカレーターは終わった。壁は同じくエメラルド色で直径八百メートルと更に広くなった天井高八メートルの場所に着いた。

「ここは我々の食堂スペースだが、まあ見ての通り殺風景だな。しかし今日は賑やかなランチになりそうだ」と城主は嬉しそうになっていた。ここは安全な場所なんだろうと感じた。

「そうだ、長旅で過酷だったのが、服装に現れている。ランチ前にシャワーを浴びて、バスローブに着替えて、すっきりして食べよう」と城主はにたにたしながら、ホールの右手のシャワールームを目指した。

 

 シャワールームですっきりし、身なりも綺麗になった三人は、食卓のあるホールの中央を目指した。

 食卓は直径十メートルもあり、いつも王妃とペットのチンパンジーで食事をするには、あまりも物寂しい事が想像出来た。

 にたにたしながら城主はローブからウィスキーボトルを取り出して、蓋を開けるとラッパ飲みし出した。それには王妃はまるで無反応だった。

 王妃の横にある下り階段から、召使いが次々とランチを持って上がって来た。料理はどれも冷たく、ペースト状の栄養価の高い、カラフルな色をした食物だった。

 これはひとえに城主と王妃の歯が抜け落ちていたためだった。歯が生え揃っている来客にはあまりな食事であり、また酔っ払い相手の時間でもあった。

 王妃は自分を本当の母のように接してほしいと言い、譲らなかった。ここに彼女を「母上」と呼ぶ慣習が生まれた。

「ベッドで寝ると良い」と城主に言われ、召使いにベッドルーム三つにそれぞれ案内された。

 ベッドルームは更に快適な場所だった。薄手のカーテンから淡い光が漏れ、ベッドはふわふわで、ベランダがありそこから外を見晴らすと、今まで来た道のりを楽に見渡せた。

 そしてショウ、センリ、シロシはベッドで眠りに付いた。三人は感激していた。こんな環境がこの絶望的な世界にあるなんて。

 

 何泊していただろうか?センリは数えてみた。十六泊していた。二週間以上、城主や王妃は心から喜んでおり、それが長期滞在に繋がっていた。

 ベランダからの眺めはいい。下を覗き込むとあの格闘の日々を思い出す。そしてこの場所から動けなくなるのだった。

 地下施設、崖の地上、黒い道、城があるこの世界を知る、自分たちの出生の秘密を知るという命題を背負ってここに来たのだったが、ここの城の快適さに触れるともはやどうでもよくなる。

 それがショウであり、センリであり、シロシであった。城主が親切なのである。

 三人は未だここの夢のような世界に浸ってい続け集ったのである。

 エイジとユラが連れて行かれた医療施設も癒し、治療を考えればどれだけか、ここの城よりもっと良い環境だろうと想像された。


 そして既に城主と王妃の優しい両親のような計らいで、三人は合計すると二百十日、ここに滞在していたのであった。

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