第8話 E

 みんなは意識してルウスのことには触れなかった。心の中に留め置いていた。

 壁の左端寄り、高さ三メートル程の位置にある「E」と言うマークの下に、四人は集まった。

「エントランスとしたら、城の入り口があるのか?イグジットだとしたらこの黒い道の出口になると言う意味か?」とセンリがみんなに詰め寄った。

「それだけではない、この壁の向きはイーストであり、この壁が行き止まりになると言うエンドでもあり、逆にエンドレスかも知れない。この『E』は幾らでも解釈が出来るが、ここにこれがあると言う意味合いは重い。天井開口も」とショウが冷静になって説明した。

 ルウスを喪って特にユラとエイジは精神的に疲れていたため、ここでの問題に取り組む気力を失っていたのである。

 天井に丸く開口部があるのは、今までここの黒い道を迷っている中で、初めて、ただのここ一箇所だけだった。

 みんなの時間はゆったりと過ぎて行き、開口部の外は夜のようだった。

 エイジはあくびをしてあぐらをかき、ユラは流石に横になった。

 センリは「E」のマークと開口部を眺め、ショウは腕組みをして落ち着きなく歩いてまわっていた。

 ショウは歩き回っていた時、「E」の印が自分の身長とほぼ同じである事に今気づいた。

「触れられるじゃないか、この手で」そう呟くと、「E」に迫って行って「触ってみるぞ、俺は!」と大声を出すと両手をあげ「E」に触れた。

 しかし、特別な反応がなかった。まだ幾らでもやれる事があるとショウは腕の動かし方を変えた。

 押し込んでみる、引っ張ってみる、下から上へ押し上げる、上から下に押し下げる、右から左に動かしてみる。どの試みも上手くいかなかった。

 そして左から右に動かしてみた時だった。

「E」の印が動き出した。そしてその奥から眩ゆい光が溢れ出て来た。

 そして円形開口部からも溢れんばかりの光が、黒い道にもたらされた。

 光は黒い道を反射して広がり、次第に内部空間全体を照らし出した。黒い道は光に包まれたのである。

 急に黒い道の空間が明るくなった事に驚いたのは、エイジ、ユラ、センリだった。目を手で覆わないと眩しさに耐えられない程だった。センリの灯火はいらなくなってしまった。

 みんな自由に動ける空間になっていた。

 しかしそんなに長く喜んではいられなかった。彼らの目的地は城。そこをこの明るくなった空間が照らされている間に目指す事だった。


 明るくなったとはいえ、城がどこにあるのかないのかは、依然分からないままだった。

 手掛かりとしては、この光の状況を作り出したきっかけとなる行為は、「E」のマークが唯一、左から右に動かす事が出来たという点だった。

 他の方向には動かす事が出来なかった。

 根拠のない暗示だがとして左から右方向に進めと言う事ではないかと、ショウは説明した。

 四人は「E」マークのある壁の前に立ち、確かに左に動いている事を確認した。

 根拠はないがこの暗示を信じて、右方向を絶えず意識して行動していく事になった。

 メンタルが安定しているショウとセンリが先頭に立ち、未だルウスの事で不安定なユラとエイジは、後方から着いて行く事となった。

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