交わる世界のヒキガネ
冷凍パンダ
告白
くっつかない二人。
アレン→ジョゼフ×マリーの関係。
今日は用があって外に出ていて、その帰りに時間に余裕があったのでアレンの病室に顔を出すことにした。
たまに顔を出さないとそのうちアレンは無茶をしそうで怖い。
「んだよ、また来たのかよ。お前暇なのか?」
「今日は時間が空いてた」
「来ても別に歓迎しねえからな」
アレンはそう言いつつもそんな態度とは裏腹に病室に置いてあった菓子を持っていけ、と渡してくれた。
きっと嬉しいのだろう。話していると顔色が良くなってきているように見えた。
外は夕暮れになっていて、西日の光がカーテン越しに透けて見える。
「今日はマリーは一緒じゃねえのか?」
「ああ」
眺めているとアレンはぼそりと聞いた。
「お前らさ、どこまでいったんだよ」
「どこって……昨日はマリーと付近の森まで」
昨日彼女と訪れた場所を思い描きながら言うとアレンが呆れたように言った。
「んなこと聞くか。お前本当鈍感っていうか、案外天然だよな。もうお前はマリーと付き合うようになったのかって聞いたんだよ」
付き合う?彼女と恋人同士ってことか?そう聞かれて困惑した。返答できないでいるとアレンが言った。
「……その様子なら何もないみたいだな」
彼が小さく肩をすくめた。
「なんとなく聞いただけだ。もういい」
「アレンには俺たちが付き合ってるように見えたのか?」
「……見えたっていうか……お前、マリーのこと好きなんだろ」
その通りだった。彼女には伝えていないけれどマリーのことが好きだ。彼女は天使だ。女神だ。ちょっとお転婆すぎるところはあるけど。アレンの問いかけに頷いた。
「告白とかさ、しねえの」
そう言われて首を横に振る。
「……告白は嫌だ」
「男らしくねえなあ」
少女めいた顔立ちをしているアレンにそんなことを言われると少し変な感じだ。
「……嫌われたくない」
「そんなことで嫌うような繊細な女じゃねえだろ、あいつ」
「もしダサいと思われてマリーに軽蔑されたら生きていけない。死にたい」
マリーの冷たい視線を想像しただけでぞっとする。イヴァン博士に冷やかされるかもしれない。この世の終わりだ。
思わず頭を抱えるとアレンが舌打ちをした。
「死にたいってオレの前でテメーなあ……」
「告白なんてできない」
「告白なんてただ好きだって伝えれば終わる話だろ」
「そうなのか?」
聞けば彼が照れたようにぼそぼそと小さな声で言った。
「……漫画で見ただけどな」
告白。マリーになんて声を掛けるんだ?
「……想像できない」
「大抵は二人っきりの時だろ。手を取って、見つめる。それで言ってやる。『お前に心底惚れてる。俺の太陽になってくれ』」
「……無理だ」
そう言えばアレンが苦笑した。
「……お前には出来ないかもな」
「練習してもいいか」
「練習?」
アレンの手を取ると彼が驚いたように固まった。
「な、なんだよ」
その目を覗き込む。
「好きだ。君に心底惚れている。俺の太陽になってくれ」
「へ……」
アレンが小さく声を漏らした。
しばらく病室がしんとした。
「……こんな風でいいのか」
彼の手を離してそう聞くとようやく我に返ったようにアレンがはっとした。
「……き、急に、オレで練習すんな!」
彼がそう叫んで枕が飛んでくる。
それを受け止めて彼のベッドに戻す。
「アレンが教えてくれたんだろ」
「オレにしろとは一言も言ってねえ!……大体、練習って言ったって実際にマリーにそんなこと言えるのか?」
そう言われて首を横に振った。
「たぶん言えない。こんなキザで馬鹿げたセリフ」
アレンが憤った。
「悪かったなキザで馬鹿げたセリフで!ったく、あれほど恥ずかしいだの女々しく言ってたくせにオレには平気で言えるんだな」
「……そうだな、お前相手なら言える」
彼が拗ねたように言った。
「……どうせオレはお前にどうでもいいと思われてるから平気なんだろ」
それは心外だった。こんな話彼以外には到底出来ない。
「アレン以外に好きだなんて練習でも言わない」
そう言うとアレンが怒っているのか、悩んでいるのか複雑な表情をした。
「……あー!もう!なんなんだよお前は」
深くため息をついてアレンはぷいと後ろを向いてしまった。
「もういい。お前ら2人のアホカップルの話題に付き合う気はない」
「アレン、」
「オレは疲れた……せいぜい勝手に告白でもしてろ」
そう言ってベッドに沈んでしまう。
急にヘソを曲げてしまった。アレンはこれ以上会話をしたくはないらしい。
あまり無理矢理話す理由もないので引き上げることにした。
「アレン、また」
ドアを開けて出ていく前、ベッドの方に声を掛けた。
「……ん」
アレンは背を向けたままだったけれど手を振ってくれた。
そのやり取りを最後に部屋を後にした。
◆◆◆◆
「あー、バカバカしい……」
ジョゼフが居なくなった病室で息をついた。
静かになった部屋の中はほっとするけれど、静かすぎるような気もする。
「何ガキみたいなこと考えてるんだよ」
苦々しい気持ちになって吐き捨てるように呟いた。
どうやらセンチメンタルな気分に陥っているらしい。自分らしくもない。
どうしてマリーとあいつの話題なんて振ってしまったんだ。そもそも今日のオレはどうかしている。
アレンが握った手に目を落とす。ありえねえ。なんだよあいつ。フツーオレで練習するか?
なんであの時振り払わなかったんだ。そう思うがあの時は咄嗟に拒絶の言葉が出てこなかった。
あいつの下らない告白の真似事が頭から離れない。
告白の言葉を思い出して振り払おうと首を横に振る。
「……クソ、慣れないことしやがって」
自分の頭を軽く殴った。忘れろ、忘れろ。
「別に俺はあいつが告白を誰にしようと……」
呟いていると病室の外から『コンコンコココンッ!』と異様にウザいリズミカルなノックが室内に響いて飛び上がりそうになった。
ドア越しに声が聞こえてくる。
「しぃーきぃーかぁーんっ!いるっスかー?」
あの間延びした人を苛立たせる声はルイスしかいない。舌打ちをしてドアの向こうにいるだろう人物を睨んだ。
「あ?なんだよ」
「鍛錬帰りにお見舞いに来たっスよお。上官思いの部下っすから」
返答も待たずにルイスは入りまぁーすと言って部屋に入ってきた。許可もしてねえのに。ウザい。
「調子はどうっスか?」
「別に」
「なんか指揮官、もやもやした顔してます?」
「はあ?」
ウザいくせに鋭い。指摘されて少し焦る。
「あっ!もしかして恋わずらいだったり……わっぷ!」
ルイスの顔面に枕をぶん投げる。
「黙ってろ!」
なんなんだこいつの異常な嗅覚は。いや、恋煩いなんかじゃねえけど。決して。
「まあまあ。指揮官、ピリピリしてると体調に響くっスよ?」
「お前が響かせてるんだろうが!」
「あ、じゃあいい話をしてあげるっス」
「いい話?」
「ふふーん、【妻との馴れ初め物語~序章~】っス」
「ゴミほども興味ねえ」
「そんなー!いい話っスよ?」
「やめろおぞましい」
「俺の奥さんはめっちゃくちゃ可愛くて…」
「聞いてねえって言ってんだろ」
ナースコールでも押してこいつを排除してもらおうか。ちらりとそんな考えが浮かんでしまう。
「あ、帰そうとしないで!じゃあ告白シーンだけ!俺すごいカッコいいんスよ!」
「どうでもいいんだよ」
「あれは真夜中の海辺を妻と歩いていた時のことっスね」
「何が目的で夜中に二人で出歩くことなんてあったんだよ」
ルイスは俺をよそに一人芝居を始める。
「あの時妻を後ろから抱きしめて……『好きだ。僕の太陽に……ってぶわ!」
話を遮ってルイスの顔面に枕をフルスイングした。
「黙れ!!!」
告白のセリフがこいつと被るってなんだよ。こいつジョゼフとの会話聞いてなかっただろうな。
いや、むしろ聞いていて欲しい。こんな奴と偶然にも被るなんて最悪だ。
「暴れないで下さいよ〜!あ、指揮官もこのセリフ使っていいっスよ」
「誰が使うか!出てけー!!」
そう言って枕をブン回してルイスを追い払った。
ルイスが去った後、オレは疲れ果てて死んだように寝て、ルイスとジョゼフに告白されるという変な悪夢を見てうなされる羽目になった。もう告白の話をするものかと誓った。
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