#39or58:美辞or麗句
四人カブりは初だ。それだけ場が煮詰まっているってことか。確かに四ターン目。出せる札の種類は各々三種類しかない。【1】は七人中五人が既に使っているから狙いどころかと思えたが、その持ち主である洞渡と在坂は「手取り百万」ではもう満足できないという意思表示か、【4】と【5】を呈示。そして結果「高額」の【5】に、ここまで集中したと。
【6】の持ち主は三人、朋有・洞渡・春日の三名だったが、うち二人が【5】、春日嬢だけが【3】で切り抜けた。結果誰も【6】は出さないという結果に。してやったり感が強い俺だったりするが、落ち着け。局面がもうそんな単純じゃあ無くなってる。
やはり、あの五百万で【4】を通したのが悪手だったんじゃねえのか。春日嬢の今の持ち金は四百。対してトップの洞渡と灰炉は一千万。六百万の差は、すなわち【6】一枚分の差だ。春日嬢はここで【6】を通しておかなければ、追いつけなかった。もちろんラスト五ターン目で出すことは出来る。が、「ペナルティ揉み消し」がまかり通ることになってそうな現状況……春日嬢の【6】を潰すためだけに誰かが【6】を出すことも考えられる。いや待てよ。
そんな悠長なことを言ってる状況でも無い、のか?
四百万に今回の三百を足して七百万、最終ターンで【6】を通せたとしても、千三百万にしか届かねえ。一千万持ちの洞渡が今回【4】か【6】を通した時点で、春日嬢の勝ちは無くなる。
負ける……そもそもこの勝負が「史実」に、ひいては俺の存在に、これからの「甦り」とやらに関わることは無いのかも知れないが、
それでも、負けるわけにはいかないような気がした。そもそも俺が腑に落ちねえ。ここでの負けを晒したまま、例の猫耳の「選別」に臨むなんてことは、
もはや出来そうも無かったわけで。
差し当たってこの俺が出来そうなことは何だ? 物への干渉、今の局面でそれは「札」以外には無いだろう。じゃあどうする? すり替え……プレの結果がどうあれ、本番での出し手が全て。ならばその時に札をすり替えることが出来たのなら。春日嬢に【6】を通させ、他の奴らを同士討ちさせる。勝つためにはもう、それしか無さそうだった。
幸い、それぞれの札の「出し場」と、それ以外の持ち札の置き場所は、どちらもこのテーブル上であり、その距離も至近。十センチくらいしか離れてねえんじゃねえか? すり替えはいけそうだ、が流石に全員分のは無理か。テーブルの上、四、五メートル四方を駆けずり回ってチェックして入れ替え回る。出来るのはこの身体では二、三か所が限度だろう。だが、やるしかない。
四人が【5】を今、「出し場」に提示している状態……その札を協議に勝ったひとりは出したままにする、他の三人は引っ込めるという流れにこれからなるだろうが、【5】札が戻される位置を覚えておけば。そいつをその後に変更して出された札と取り換え回れば、今出されているように、【5】を四カブりさせて沈ませること、それも為しうるのでは。
あと残る二人、洞渡と灰炉は、共通する札が【4】しかないが、洞渡は今、単独で【4】を出せている。灰炉の【4】を探って、それが場に提示できれば、現時点でのトップ二人を双方沈め貼りつけておける。
こんな無法が通るのは一回限りだ。無効だ、とか騒ぎ立てられるかも知れないが、シンゴなら、シンゴなら分かってくれる気がした。その上で、OKとジャッジしてくれるだろうことも。そこはもう賭けるしか無さそうだが。
協議が終わるまでの間、おそらく五分ほどだったと思うが、流石に緊張感でじっとしてられなかった。テーブルの上に降り立ち、意味は無いのだが屈伸をしたりアキレス腱を伸ばしたりしていた。そしてまったく耳にも頭にも入って来なかったものの、協議は終了。ここから本番の「呈示」までの時間はどのくらいだ? あと一分くらいか? 各々の出し手は、
朋有【?】灰炉【2】洞渡【4】杜条【?】鍾錵【5】在坂【?】春日【3】
となったようだ。よし、ここで行くしかねえ……ッ!!
取り敢えずのやるべき事を頭の中に展開させて、反時計回りで駆け巡ろうとした、その、
刹那、だった……
「あっれぇ~、よく見たらあたしぃ~、もう被らないのって持ってなかったわ~」
杜条の何かを含んだ、わざとらしく間延びした声が響く。こいつ……何か企んでやがった?
杜条の残り札は【2】【4】【5】。そのうちの【5】でカブってしまったため、他のどちらかを出さなくてはならないことになったが、それも誰かとカブる。分かってただろ、ここに至るまでで。そしてそれに気付けなかった俺らが間抜けってことか?
残り三十秒が告げられる。
「……こういう場合ってどうするって決めてなかったよねぇ~、どうしよう?」
杜条の粘着してくる言葉に身構えるかのように姿勢を改める他の嬢たち。まずいぞ、混沌を呼び寄せやがった……!!
杜条が何出すか分からないのなら、今までの取り決めは全て反故。つまりは疑惑が疑念を呼んで、完全にガチ勝負の雰囲気になってしまった。そして、
俺の画策も最早出来そうに無かった。それぞれがそれぞれ、今まで出していた札を引っ込めて自分の手の内に入れて再度考え始めてしまったから。くそっ……
「じゃあオープンで」
こんな鉄火局面においても、シンゴはゆったりと進行を続けていやがるが。こんな反則すれすれの「策」みたいなの好きだもんな……信条って感じもするもんな……だが、
非常に追い込まれてしまったわけで。どうする?
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